エターナル・フロンティア~前編~
何度も、唾を飲み込む。
現在の状況は、犯罪者から逃れ身を隠している雰囲気だった。過去に、そのような内容の映画を観たことがあったが、まさか自身がそのような状況に置かれるとは――人生は、どのように転ぶかわからない。
いや、ソラと出会って人生は大きく変化した。ソラとイリアは、根本的な部分で違っている。勿論、それは理解していたが、感情と態度の両方が一致し一定方向へ動くとは限らない。
時として、悪い方向へ突き進む時がある。それが、今の状況を生み出していた。「失礼なことをしてしまった」という感情が湧き出してくるが、身体が硬直しているので動くことはない。
「――そうですか」
再び、ユアンの声が響く。
一体、何の話をしているのか。
断片的な会話で、多くの情報を得るのは難しい。ましてや、人生経験が乏しいイリア。語られる単語は未知の言葉に等しかったが、次に発せられた言葉に身体が過敏に反応を示す。
(……何?)
ユアンは確かにソラの名前を発していたが、以前ユアンはソラの担当だと話してくれたので、別に心配することはない。イリアは、本能的に何かを感じ取ってしまう。それはソラの危機を示しているのか、それとも別の意味なのか。先程以上に、聞き耳を立ててしまう。
「頑固ですよ」
それに続き、笑い声が響く。どうやら日々ソラに梃子摺っているのだろう、ユアンは笑いを含めながら更に言葉を続けていく。愉快で楽しくて――その声音に、イリアは目を丸くする。
「はい、実に――」
誰に対しても優しい。
だから、ファンクラブが結成される。
どのような生き方と生活を送れば、あのように心が広い人物になることができるのか。普通の人間からかけ離れているユアンの性格と態度に、心の奥に溜まった物を吐き出すように溜息をつく。そして物語の中に登場する聖人と表現できるユアンは、完璧といっていい人物。
ユアンが、ソラのことを語ることは多い。一方、ソラがユアンのことを語ることは滅多にない。稀に口を開けば、発せられるのは愚痴。相当嫌っているのか、言葉に嫌悪感が混じっている。しかしユアンはソラのことを心配しているらしいが、それは表面的なことだった。