エターナル・フロンティア~前編~

 今のイリアの最優先事項。それは「ユアンに見付かってはいけない」というものであった。しかし、ソラが側にいたら間髪いれずに指摘が飛んでいただろう。「電源を切れば」と――

 尾行し監視をしているというのなら、携帯電話の電源を切っておくのは当たり前。それを怠っていたというのに、自分の不幸を呪うのはそもそもの間違い。イリアは、自己嫌悪に陥る。

 やっぱり、自分は――

 決して、恵まれていない。

 悲観的な考えは感情の高まりと同時に膨らんでいき、徐々に自身を確実に追い込んでいった。

(見付からなかったから、良かったけど)

 イリアは再び溜息をつきつつ、画面に表示されている文章を無言で読んでいった。その内容というのは卒業旅行についてであり、イリアがユアンに相談していた内容に被っていた。

(何だ)

 これが私的のメールであったとしたら、イリアの怒りは更に増していた。しかし、内容は多くの人物に関わるもの。一瞬にしてご満悦と呼ばれる表情に変化したイリアは、口許を緩める。そして、意気揚々とメールを打ちはじめた。無論、内容はパーティーについてだ。

(返信が、楽しみ)

 送信と同時に、胸が高鳴る。

 このメールを見た相手は、どのような表情を浮かべるか。

 両者の関係を、どのように思うか。

 喜ぶか。

 それとも、悔しがるか。

 妄想とも取れる想像が、浮かんでは消えていく。

 クラスメイトを含め、多くの女子生徒がユアンを尊敬しているのは見て取れる。その代表的なモノが、ファンクラブ。着々と会員数を伸ばしている時点で、ユアンという人物の偉大さが認識できた。

 その人物と――

 イリアは、実に嬉しかった。

 そう、感情は素直に心情を表していた。

 その時、ユアンの言葉が途切れた。先程まで明るい声音が耳に届いていたというのに、今は全く聞こえない。急な変化に、イリアは動揺を隠し切れずにいた。仕事でトラブルが発生してしまったのか、それとも別の問題なのか。相手がユアンということで、不安が大きい。
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