エターナル・フロンティア~前編~
その為、隠れていた場所から這い出ると、四つん這いでユアンがいる部屋の側へと向かった。
そして、部屋の中を覗き見る。
刹那、心臓が激しく鼓動した。
(……ラドック博士)
視界に飛び込んできたのは、歪んだ表情を浮かべるユアン。普段は柔和のイメージが強い彼であったが、イリアの瞳には別人として写っていた。そして同時に、全身に冷たい物が走る。
怖い――
イリアは慌てて顔を引っ込めると、冷たい廊下に尻をつける。そして、今の人物はユアンでないと自身に言い聞かせていく。それほど今の表情は、似ても似つかない別人であった。
科学者は、皆同じか。
研究所で働いている多くの科学者達は、何処かピリピリとした雰囲気を常に纏っている。そして中には、今のような表情を浮かべている者もいた。常に、上位を目指している向上心の塊。
言ってしまえばそのようなものだが、ユアンもそれに等しい野心を内に秘めている。物事を良い方向へ考えればそのような結論に至るが、本来のユアンは彼等と同種の存在であった。
天才と呼ばれている人物。
内面と本質は一緒。
それに気付いた瞬間、イリアは嬉しい悲鳴を発していた。
「誰だ!」
勿論、その悲鳴はユアンの耳に届いてしまう。まさか、自身の会話に聞き耳を立てていた人物がいたとは。予想外の出来事にユアンは舌打ちをすると、無礼者の顔を見に向かった。
「……ランフォード君」
「す、すみません」
「静かに、待っていると思っていた」
「……はい」
「すみません。此方で、問題が発生しました。いえ……それほど……ただ、少々厄介でして」
電話の相手に、言い訳とも取れる言葉を繰り返す。流石に「立ち聞きされてしまった」とは言えないらしく、ユアンは「諸事情」という理由で、電話を切る。そして見下すような視線をイリアに向けると、肩を竦め溜息をつく。そして、立ち聞きをしていた理由を尋ねた。