エターナル・フロンティア~前編~
「それは?」
「料理を教えて欲しいの」
「誰が?」
「ソラに」
再び、二人の間に沈黙が走る。そしてソラは、驚いた表情を浮かべている。しかし、イリアも引けない部分を持っている。「皆の為に――」その一心で、懸命にソラに頼んでいく。
だが――
「ちょっと、無理だな」
ソラは困ったような口調で、答えていく。別に、決して怒っているというわけではない。ソラにしてみれば、このように料理を教えて欲しいと頼むこと自体、珍しく驚きの対象であったからだ。だが、無理なものは無理。それは、ソラの身体状況が深く関係していたのだ。
「今、これなんだよ」
「あっ! うん」
「それなら――」
現在、ソラの体調は良い方ではない。寧ろ、悪いといって過言ではない。先日、ソラは命を失うに等しい状況に追い込まれた。全ては、関係者の責任。そう、科学者(カイトス)の傲慢が招いた。
ソラは数ヶ月前より、検査を受けるようにと科学者から打診があった。今までのらりくらりと彼等の言葉をかわしてきたのだが、先日その科学者に捕まり検査を受ける羽目となってしまう。
無論、それが生易しい検査の訳がない。能力者(ラタトクス)の中で最強と謳われる力を持つ人物を目の前に、彼等の目の色が変化するのは一瞬の出来事。それにより、悪夢の再来を体験してしまう。
身体と精神に、予想以上の傷を残した。そして外見上見える範囲でそのことを判断できるのは、足首に巻いている包帯。それは傷跡というわけではなく、一種の捻挫だ。その結果、歩行が辛い。それを見たイリアの表情が、徐々に悪くなっていく。そして一言、謝ってきた。
「……御免なさい」
「いや、いいよ」
捻挫の影響で、一箇所に立ち続けているのは不可能に近い。痛み止めを用いて痛みを散らし作業を行うという手も無いわけでもないが、自宅にいる時にそれを用いることはしない。それにより回数を増やして使用していると、癖になってしまう。そして身体に耐性が生まれ効き目が弱くなってしまうと、今後の生活に関わってくる。だから、使用は避けたかった。