エターナル・フロンティア~前編~
「大丈夫か?」
「……はい」
「何事も目標は大きい方がいい」
「大きすぎます」
「そうか」
「……ラドック博士」
ユアンの反応に、救い出された者は涙ぐむ。
科学者を目指している者にとって、ユアンは一生を掛けても越えられない人物。九千メートル級の山脈と表現されるほど、人間を超越した存在。その人物をどのように越せというのか――
酷なことである。
「何か、悪いことを言ったのかな」
「いいました」
「そ、そうか」
相手の心理を読み取るに長けているユアンであったが、今回の場合は流石に読み取ることができないでいた。ユアンは、珍しく動揺している。それを見た者達は、目を丸くしていた。
「は、博士が……」
「人間だったのですね」
「何だ、その言い方は」
「僕達と、何処か違う存在だと思っていました。ですが、一緒ということがわかり安心しました」
「人を化け物扱いしないで欲しい」
「す、すみません」
ユアンの気分を害してしまったと、全員が謝ってくる。ユアンは、本気で怒りを覚えているのではない。寧ろ、過剰な尊敬と期待が辛かった。周囲がどのように見ていようが、ユアンは他の者と同じ人間。内心、同等に扱って欲しいと思っているが、それは無理だった。
今日、パーティーに集まってくれた者達は、ユアンを全面的に信頼している。そして、過度に持ち上げていく。ユアンの知っている科学者達は、自身を褒め称えられることに優越感を覚える。その者達と同種の性格を有しているとしたら、ユアンは困った表情をしない。
だが、ユアンは何処か違った。一見他の科学者と似ている部分が存在するが、纏っている雰囲気が違う。しかし本質を理解している者は、誰一人として存在していない。それだけ、ユアンは謎が多い。更に本質を見抜かれないように振舞うのが上手く、今まで生活を送っていた。