エターナル・フロンティア~前編~
雑巾を水で濡らし、床を拭いていく。時間が経過しているので拭き取るのに時間が掛かってしまうが、懸命に全ての血痕を拭いていった。その間、ソラは一言も喋ることはしない。
普段、お嬢様の生活を送っているイリア。勿論、雑巾で床を拭くという経験は持っていない。しかし今、掃除を行えるのはイリアのみ。それに具合が悪いソラを使うのは、失礼と彼女は考えていた。
「あっ!」
途中、床に落ちている物に気付く。それは、ソラの土産の為に購入してきた紅茶の缶だった。慌てていて落ちた時に発した音が、耳に届かなかった。イリアはその缶を拾うと、ソラの側へ行く。
「ねえ、ソラ」
「うん?」
「紅茶、好き?」
「普段は、コーヒー。だけど、嫌いじゃない」
「じゃあ、淹れる」
イリアの提案にソラは反論を述べず、寧ろ受け入れていた。そもそも、反論する理由はない。それに長時間床に寝転んでいたので、喉も渇いている。何より、イリアが購入してきた紅茶の味がどのようなものなのか、気になっていた。しかし同時に、大丈夫か心配になる。
「平気よ」
「紅茶って……茶葉だろう?」
「ティーパックよ」
「そ、そうか」
ソラはてっきり、乾燥した茶葉を購入してきたと思っていた。イリアが購入してきたのは、手軽に飲めるティーパック。彼女らしい選択に、ソラは気付かれないように苦笑していた。
だが、それはそれで嬉しかった。イリアが自主的に、物を買ってきてくれたのだから。いそいそと、キッチンへ向かう。本当であったら寝室のドアを閉めていって欲しいものだが、イリアは開けっ放しでいってしまう。
どうやら「紅茶を淹れる」ということしか頭の中になかったらしく、これはこれでイリアらしいとソラは思う。と同時に、頭を掻いた。紅茶が用意されるまで、時間が掛かってしまう。何より水から沸かして、お湯にしないといけない。
この時代、高性能の湯沸かし器という器具が存在しているが、それは一瞬にして水が沸かせられる便利な代物というわけではない。それにイリアは、家事能力は素人以下。ソラ以上に、時間が必要となってしまう。それを考えると、気長に待っている方が気楽でいいだろう。