エターナル・フロンティア~前編~

 その時、キッチンで物凄い音が響く。ソラは反射的に起き上がると、音が響いた方向に視線を向けた。そして、大声で叫ぶ。無論、叫ぶ行為は身体に響くが、イリアが心配だった。

「イリア」

「だ、大丈夫よ」

「何か、落とした?」

 返事が返ってこない。そのことに寝台から降りると、キッチンの方向へ歩いていく。するとソラの視界の中に、鍋を拾っているイリアの姿が飛び込んでくる。その姿に、慌てて近寄る。ソラは代わりに拾うと言うが彼女は嫌な表情を浮かべ、寝ているように言い返してくる。

「だ、だけど……」

「ソラは病人」

「あ、ああ」

「だから、ベッドで寝ていて待っている。それに、紅茶も淹れられないのはおかしいでしょ」

「おかしくは……ないよ」

「そういう問題じゃないわ」

 これは、女のプライドに関わる問題。イリア自身、何でもかんでもソラに頼るのは悪いと、認識してきたのだ。決定的な出来事は、シフォンケーキの件。あれは、相当ショックだった。それにユアンの自宅で、相当苦しい思いをした。だからイリアは、変わろうと決意する。

「だから、寝ていて」

「わかった」

「が、頑張るわ」

「気張らなくていいよ」

「う、うん」

 ソラの言葉に、力無く頷く。今、家庭面ではソラに劣っている。それを少しでも改善したいと思い紅茶を淹れようと決意するも、このように心配させてしまった。それが心苦しく、ソラの顔に視線を向けることができなくなってしまう。イリアはソラの背中を押し、寝室へ連れて行く。

「心配しないで」

「皿を割ったら、オレに言う」

 流石に、其処までおっちょこちょいとは思いたくないが、鍋を落とした件も気に掛かっていた。イリアは、何度も「大丈夫」と、繰り返す。そしていそいそと寝室から出て行くが、途中で転んでしまう。勿論、廊下に歩行の妨害となる物は置いていないので、勝手に転んだ。
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