エターナル・フロンティア~前編~
相当慌てていたのか、シクシクと泣き声が響く。しかし、ソラは助けに向かわない。行ったら行ったで、イリアの反論が待っているからだ。それに、これくらいで傷付く身体ではない。
ソラはベッドに横たわると、天井を見詰める。勿論、特に深い意味は無い。逆に、その方が楽で良かった。今、気分はいい。イリアが訪れる以前より、身体を締め付けるモノは消えた。
目を閉じる。
そして暫く、夢の世界へ行く。
ソラの夢の中に現れた者――
それは、明確に判断できない。
全身が黒い物体で、人間の形状を取っているということしか区別の対象ではなかったからだ。
男か女か。
年齢は、どれくらいか。
相手が口を開かないので、判断できない。
背丈は、ソラより低い。
ただ、一箇所に立ち尽くしている。
ソラは目の前の人物に、無意識に手を伸ばす。その瞬間、相手が黒い腕を此方に伸ばしてきた。
刹那、相手が手首を掴んだ。
突然の出来事に手を振り払おうとするが、想像以上の力で握られているのでそれができない。
「お前は――」
ソラは口を開き、息を吐き出すように言葉を出す。だが、相手は反応を示すことはなかった。更に力を込めていき、ソラを自身の側へ引き寄せる。そして押し倒し、首を絞めていく。
突然の出来事に、ソラは目を丸くしてしまう。必死に首を絞めている手を解こうと試みるが、脳に酸素が回らないので意識が遠のいていく。それにより、両手に力が入らなかった。
「悪魔!」
その時、相手が口を開いた。発せられた声音は、女性のもの。二十代後半か三十代前半かわからないが、ハッキリと女性の声音と区別することができた。聞き覚えは、確かにあった。遠い昔に聞いた、短い単語。刹那、ソラの全身に鳥肌が立つ。そして、掠れた絶叫が響く。