エターナル・フロンティア~前編~

 そう、この人物は――




 ソラは、反射的に目を覚ます。

 そして、何気なく周囲に視線を走らせた。

 見覚えのある風景に、見覚えのある天井。

 現実に戻ってきたことに、ソラはホッと胸を撫で下ろす。そして、何度も呼吸を繰り返した。

 悪夢に等しい内容。

 噴き出した汗で、着ている服が濡れていた。

「あれは――」

 明確にあのような夢を見たのは、はじめてであった。それに今、どうしてあのような夢を見るのか、わからなかった。過去に数回、悪夢に魘されている。しかし、あのような夢は無い。

 どうせ夢を見るのなら、いい夢の方がいい。だが、夢は己自身が望んで見ることができない。それに夢は、深層心理が関係するという。よってあの夢は、ソラの心情が深く関係していた。

 思わず毒付く。

 そして、枕に顔を埋めようとした。

 その時、紅茶の香りが鼻腔を擽る。

 どれくらいの時間、眠っていたのか。イリアが頑張って、紅茶を淹れたようだ。それに気付いたソラはベッドから下りると、キッチンへ向かう。すると先程以上に、紅茶の香りが漂っていた。

「イリア」

「ソラ、大丈夫なの?」

「ああ、寝たから」

「疲れが溜まっていると、いい仕事ができないわよ。これ、経験上の話になるけどね。徹夜は厳禁」

「それ、無理」

「あっ! そうよね」

「でも、有難う」

 互いに、自身が就いている職業を深く理解している。それにより意見をぶつけていいが、無理強いしていいものではない。イリアは、徐々にそのことを学習していっている。していっているからこそ、ソラの言葉を素直に受け入れた。そして詫びの言葉を言っていくと、ソラに紅茶を勧める。イリアの不器用な心遣い。それを感じ取ったソラは、無言で頷いていた。
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