エターナル・フロンティア~前編~
金がある人間と、そうでない人間の格差。身を持ってそのことを知るが、悲しくて泣くに泣けない状況にあった。足早に行き来する人々は、誰も寒さに震えているイリアに目もくれない。「所詮他人事」という思いが働いているのか、何だか世知辛い世の中だとイリアは嘆く。
しかし、声を掛けられたら掛けられたで困ることも多い。求めているけど結局はいらない。矛盾している自分の考えに口許を緩めていると、急に寒さによって激しい眠気に襲われる。
このような場所で凍死するということは考え難いが、問題は見た目の方だろう。この場所は人の行き来が多い入り口で、いくら他人に無関心とはいえ目立つものは目立つ。だが「眠り」という欲求に抗うほどイリアは強い生き物ではなく、それに長旅の影響も出ていた。
このまま油断していると、本当に眠ってしまいそうな勢いがあった。そして眠ったままで過ごし、約束の時間が来たら間違いなくソラに寝顔を目撃されてしまう。正直にいってこれほど恥ずかしいものはなく、何よりこの場所で寝ていることをチクチクと指摘されるだろう。
(頑張れ。寝るな!)
気合を入れ、眠気と格闘する。そのようなことを懸命に繰り返していると、約束の時間を迎えた。そのことで安心をしたのか最後の最後でミスを犯してしまい、一瞬にして深い眠りに落ちる。
その時、空港の入り口付近に白塗りの車が停車した。徐にドアが開き、運転席から一人の青年――イリアの幼馴染であるソラが降りてくる。と同時に、大きな溜息がつかれた。どうやら眠っているイリアに呆れてしまったのだろう、彼が発する言葉には刺が含まれていた。
「おい、起きろ」
ソラはイリアの肩に手を置くと身体を揺さ振り、起きるように促す。だが、深い眠りに入っているイリアは、なかなか起きようとはしない。それどころか、可愛らしい寝言を発する。
「置いて帰るぞ」
その言葉に身体を震わせ反応を見せたイリアは、寝ぼけた表情で周囲を確認する。すると自分の横に誰かが立っていることに気付き、とろんとした瞳で相手を見詰めるが、誰か気付いていない。
「……おはよう」
幼馴染が発した第一声に、ソラは激しい脱力感を覚え項垂れてしまう。空港の出入り口付近で寝ている自体有り得ないというのに、イリアは寝惚けているので自分が何を頼んだのか忘れている。ソラは呆れ再び溜息を付くと、先程とは違い凛とした口調でイリアに声を掛けた。