エターナル・フロンティア~前編~

 イリアは、手馴れた手付きで返信用のメールを打っていく。内容は、受信したメールへの感謝の気持ちを入れた文章だった。卒業式の内容は、後で電話をすればいい。よって、短い文章だった。

(……有難う)

 メールを送信し、携帯電話を閉じる。

 刹那、頬が赤く染まった。

 それは、数日前の出来事を思い出したからだ。

 ユアンが開催したパーティーに呼ばれた後、イリアはソラの自宅へ向かった。その時に起こった出来事。まさに、不意の行為。予想外の件に、思い出しただけで顔が赤面してしまう。

 しかし、不快な気分は無い。

 寧ろ、心地いい。

 両者は、幼馴染の関係。

 だが、徐々に変化していっている。

 それを薄々、感じる。

 だからといって、言葉に出すことはしない。それは、互いに置かれている立場を理解しているからだ。

 だが――

 想いは、募る。

 いつか。

 そう、いつか。

 どれくらいの年数掛かるか不明だが、それを願う。イリアは携帯電話とバックを持つと、一階へ降りていく。そして、母親が用意した朝食を黙々と食べはじめる。両親は、アカデミーの卒業を喜んでいた。イリアは留年せずに、卒業できるのだから。それに、就職先が大きい。

 多くの科学者(カイトス)が、望む場所。

 その場所に、娘が就職した。

 両親は、鼻が高い。

 近所に、自慢ができる。

 娘の就職先は、両親の地位と立場を向上させる道具に過ぎない。言葉として明確に言うことはしないが、両親が漂わせる雰囲気でイリアは心の中を読み当てる。綺麗に焼けているトーストにマーガリンを塗ると、一口齧る。途中、イリアは上目使いでダニエルの顔を見詰める。

 ダニエルは、口許を緩めていた。それだけ、卒業と就職を喜んでいるのだ。いつも厳しい人物が――

 内心、複雑な心境であった。そしてますます、不信感が強まる。
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