エターナル・フロンティア~前編~
「イリア。オレが誰だかわかるか?」
「えっ!」
半分しか動かない思考を働かせ、目の前にいる人物が誰だか思い出す。自分と同年代の外見で、銀髪と紫の瞳を持つ異性は――次の瞬間、一気に眠気が吹き飛ぶ。それと同時に幼馴染に迎えを頼んでいたことを思い出したが、寝顔を見られたことにイリアは不満の声を上げる。
「迎えを頼んでおいて、それはないだろ?」
我儘に近い頼みごとを聞き、態々来てやった。そのような思いがあったのだろう、イリアの態度に機嫌を悪くする。しかし彼女にとっては寝顔を見られたことが一大事であったので、幼馴染の気持ちを理解しようとしていなかった。結果、イリアは文句を言い続けてしまう。
「帰る」
「ま、待って」
「しかし、このような場所でよく眠れるよな」
彼が言う「このような場所」という言葉に、イリアは反射的に左右に視線を走らせる。見れば出入り口を利用する多くの人達が、このような場所で眠っているイリアの噂話をしていた。時折耳に届く「こんな若い女性が……」という単語の数々に赤面し、項垂れてしまう。
「だ、だって……」
「遅いというのは、理由にならない」
「う、うん」
言おうとしていた台詞を先に言われてしまい、イリアは口をつむぐ。そして徐に立ち上がると服についた埃を叩きつつ、ソラに素直に謝ることにした。そんな物分りのいい態度に相手は溜息を漏らすと、風邪をひかれたら困るという理由で早く車に乗るように促してきた。
「何処に行くの?」
「飲み物を買ってくる。寒い場所にいたんだろ?」
「……有難う」
彼の心遣いに礼を言うが、相手は手を振るだけの反応しか見せない。照れ隠しとも思える反応にイリアは苦笑すると、言われた通り車の中で待つことにする。だが、これにあたって問題が生じる。それは、重い荷物を一人で車に乗せなければいけないということであった。
代わりに荷物を乗せて貰おうと頼もうとしたが、幼馴染の姿は何処にもない。どうやら建物の中に行ってしまったのだろう、そのまま帰ってくるのを待っていてもいいが、言われた通り車に乗っていなければ何を言われるかわからないので、自力で何とかするしかない。