エターナル・フロンティア~前編~
今、彼ができるのがそれだった。
ユアンの手を借りて立ち上がり、椅子に腰掛ける。自分の言うことを素直に聞くソラに、ユアンは特に反応を示すことはない。他の科学者の場合、服従したと受け取り、ニヤニヤと笑う。
ユアンは、其処まで下品ではない。確かに、やっていることは非人道的な行為だが、最低限の部分でモラルを守っている。それは、ユアンが自分で決めている範囲内のこと。それが、ソラが考えているモラルに当て嵌まらない。よって、両者が相容れることはなかった。
「君は、僕の管轄下のままがいい」
「えっ!?」
「僕が君を扱う場合、殺すことはしない。それは、約束することができる。悪くはないだろう?」
即答はできない。回答を言ってしまったら、自らユアンに身体を捧げるようなものであるからだ。
ご自由にどうぞ。
好き勝手に、実験に使って下さい。
たとえ、廃人になろうと――
ソラは無残に殺される者、植物状態になってしまった者をその目で見続けてきた。名前が知らないが、姿形は覚えている。その者達の二の舞にならないように、ユアンの提案を呑む。
冗談ではない。
それが、ソラの本音だ。
自身の実験動物(モルモット)になれといわんばかりの言動に、反射的にソラはユアンの顔を睨み付けてしまう。しかし、その反応は予想通り。それに、氷のように冷たい目で見られるのは慣れている。
ソラ達力を持つ者は、周囲から邪険に扱われている。一方科学者は、能力者に嫌われている。両者の差は天と地。科学者側は、世間の認可を受けて虐待に等しい行為を平気で行う。
ソラにとって、それが気に入らない。しかし一人で世論と戦っても、勝つのは難しい。だから身近な人物――ユアンに、己の心情をぶつけていく。無論、それが無駄とわかっている。
だが、やらないと自身がおかしくなってしまう。だからこそ、ぶつけていくしかない。表面上に出す態度は、実にわかりやすい。それに勘がいいユアンの特徴が混じり合い、相手の心情を簡単に読み取る。勿論それが多くの能力者を見続け、研究という名目で身体を切り刻んだ影響も強い。だからといって、それでユアンという人物を推し量ることはできない。