エターナル・フロンティア~前編~
勿論、ユアンは冗談で嘘を言う性格ではない。なら、彼が発する言葉の信憑性は高い。それに彼等の性格を考えると、一回の研究で満足するわけがない。人間が持つ欲望は、湧き水に等しい。次々と溢れ出し、止まる気配を見せない。それが興奮作用を齎すなら、尚更である。
まさに、麻薬だ。
普段、ソラは滅多に恐怖心を抱かない。しかし、今は違っていた。恐怖心が身体を包み込み、震えがくる。あれを狂気と呼ばずして、何を狂気と呼ぶのだろうか。無論、躊躇いも強い。
だが、ソラは受け入れた。
別に、ユアンを信用しているのではない。
要は、幼馴染のイリアに会いたいのだ。
彼女はタツキ以外で、信頼を置いている異性。いや、それだけではない。一緒にいたいという気持ちが強い。
だからこそ、ユアンの提案を呑む。それに現状を打開するには、最善の方法だ。受け入れてくれたことに、ユアンはほくそ笑む。そして、どのような方法を用いるか簡単に説明する。
白衣のポケットから取り出したのは、ひとつの小瓶。中に満たされているのは、半透明の液体。それを服用しろと言っているのか、小瓶を左右に振りアピールしていく。液体を見たソラは、怪訝な表情を浮かべてしまう。やはり薬の服用には、強い抵抗が強かったからだ。
「後遺症は、ないのですか」
「やはり、其方が心配か」
「当たり前です」
「心配しなくていい。後遺症の心配はない。その点を考慮して、作製してある。特別製だよ」
胡散臭い言い方だが、一度受け入れてしまったことを今更断ることはできない。それにそれをやってしまった場合、どのような反撃が待っているかわかったものではない。ユアンが危険なのは相変わらず。
言動と行動のひとつひとつに注意を払い観察していかないといけないのだが、相手は曲者。
簡単に、本音の部分を曝け出すことはない。よって、ソラは身の安全を図る。そう、無駄な反論を封じた。
「いい子だ」
「それはどうも」
「さあ、飲め。マウスの実験では、四時間仮死状態になれる。まあ、人体実験はしていない」