エターナル・フロンティア~前編~


 科学者の男は、更に質問を続けることができなかった。

 圧倒的な迫力に、負けてしまう。

 流石、科学者の頂点に立つ人物。

 言葉のひとつひとつが、身体に突き刺さる。それにより、硬直し動けなかった。顔色も徐々に悪くなっていく。変化は、一目で見破る。ユアンはクスクスと笑いつつ、横を通り過ぎる。

 刹那、小声で囁く。「ご苦労」と――

 冷たく淡々とした言葉。科学者の男は、身震いした。

 将来、多くの科学者を統率する。

 男は、それを思い出す。

 確かにユアンは、それだけのスキルを有している。

 知識·弁論·技術――天は彼に、多くを与えた。

 お陰で、今の地位に座っている。

 決して、真似はできない。絶対に、逆らってはいけない。男は、それを目の当たりにした。

 ユアンが視界から消えた後も身体が奮え、呼吸が荒い。意識を保つのもやっとで、気を緩めたら倒れてしまいそうだった。

 人間か。

 化け物か。

 底が見えない相手に、顔色が悪くなっていく。

 そして壁に寄り掛かり、動揺が治まるのを待った。




 一方ソラを連れて行ったユアンは、日頃自身が仕事で使用している部屋に連れて行くことにした。

 放置していてもいい。だが身の安全を図る場合、部屋に連れて行くのが一番。滅多なことで、立ち入る人物がいないからだ。ぐったりとなっているソラをソファーに横たわらせると、椅子に深々と腰掛ける。

 そして目を細め、ソラを見詰めた。

 しかし、殺意はない。

 寧ろ、哀れみに似た色が浮かんでいる。

「お前は……」

 囁くように呟いた言葉は、空中に霧散する。

 仮死状態のソラの耳に、届くことはなかった。だが何かを恐れているのか、ユアンの言葉が大きくなることはない。

「苦しい……か」
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