エターナル・フロンティア~前編~
それに他のいい方法が思い付かないので、イリアは一人で重い荷物を乗せることにした。眠気から覚めた身体は思った以上にだるく、なかなか力が入らない。そのような状態の中で懸命に荷物を後部座席に乗せると、助手席のドアを開け乗り込む。そして、大きく息を吐いた。
日頃の運動不足が影響してか、少し呼吸が苦しい。椅子に座って授業を受けるのが、日常生活の一部となっているイリア。真面目に運動していたのは数年前の出来事で、その反動は大きい。
(体力落ちたかも)
アカデミーに入学する以前は、少しの運動で息が切れることはなかった。やはり主な原因は、アカデミーでの生活。と言って、運動し体力をつけるということは行わない。正直に言って時間がなく、講義を聞き研究を行う。これだけで、一日の大半が持っていかれてしまう。
「あれ? 自分で荷物を入れたんだ。言ってくれれば、オレが代わりに入れてやったというのに」
「それ、早く言ってよ」
買い物を終え戻って来たソラは運転席のドアを開き、覗き込むような形で後方に詰まれた荷物を一瞥する。そして再び視線をイリアに向けると、彼なりの労いの言葉を言う。しかし、イリアはそれに対して頬を膨らます。「物事は最初にと言う」それが、彼女の考えであった。
「何も言わなかった」
「そうだけど」
「頼みごとは口で言ってくれないと――はい、これ」
投げ渡されたのは、ペットボトル入りの紅茶。受け取った瞬間、温かい熱が指先から伝わりとても気持ちいい。イリアは冷たく冷え切った手を覆っていた手袋を外すと、ペットボトルを両手で握り締めた。
寒さによって赤くなっていた手はペットボトルの暖かさにより、徐々にもとの感覚が取り戻される。ふと、イリアは紅茶を飲もうと蓋を捻るが、上手く力が入らないのでなかなか開けることができない。
「出すぞ」
運転席に乗り込みシートベルトを締めると、ソラがそう声を掛ける。だが、イリアは出発を止めるかのように、ソラの目の前にペットボトルを突き出し、無言で「空けて欲しいと」訴える。
訳を理解したソラは無言でそれを受け取ると、イリアが望んでいた行動を取る。造作なく蓋を開けると、同じように目の前に突き出す。続いて投げ飛ばされたのは、ペットボトルの蓋。器用に投げられたそれはイリアの太ももの上に落ちると、何事もなかったかのように振舞う。