エターナル・フロンティア~前編~
「もう、ソラ」
「折角、開けてやったというのに愚痴らない。それと、真っ直ぐに自宅に向かっていいかな。途中で寄りたいという場所があるというのなら、寄ってもいいけど。まあ、金がないか」
金銭面を見抜く鋭い一言に、イリアは紅茶を飲むのを止める。それと同時に旅での嫌な出来事の数々を思い出したのだろう、急に暗い表情になってしまう。その変化にソラは、何気ない質問を投げ掛ける。
「空港内で揉め事を起こしていたのは、イリアの友人? 違っていたら、謝るけど。ただ、何となく」
一定の声音で発せられた台詞に、イリアの身体が微かに震えてしまう。それはとてもわかり易い反応であったが、質問に対しての回答はない。微妙な空気の変化を感じ取ったのだろう、ソラは無理に聞き出そうとはしない。ただ重苦しい空気の中、ソ車を発進させていた。
「……ソラが言ったように、私の友人」
「そうか」
「どうしてわかったの?」
「雰囲気……かな」
イリアを気遣ってのことか、あえて曖昧な表現を使う。だが、本当のところは違い、三人で歩いているのを街中で見かけた。それが正しい答えであったが、傷付けてはいけないと敢えてその点は言わなかった。
「昔から、勘は鋭いものね」
「あの職業についていれば、嫌でも鋭くなってしまう。それに鋭くないと、生きてはいけない」
「そのことで、安心したことがあるの。今回、何処かに行かなくて本当によかった。もし危険な所に行っていたら、無事に帰ってくるか心配になってしまうもの。だから迎えて来てくれて、本当に有難う」
「改めて、どうした」
「本当に、困っていたから。それに、頼れる人は少ないもの。だから、ソラには感謝しているわ」
その言葉と同時に、シャトルの中で見た光景を思い出す。
幼馴染のソラが遠くに赴いていないことを心の底から願い、必死に祈っていたことを――
無意識に、運転をしているソラの横顔を一瞥する。自分の側にいるのは幼馴染であり、見慣れた顔。そのことに安心感を覚えたのか、イリアは紅茶を一口含むと途切れてしまった言葉をポツリポツリ続ける。すると言われたことが面白かったのだろう、ソラは笑い出す。