エターナル・フロンティア~前編~
「ど、どうしたの?」
「信号が赤になっていた。考え事をしていたから、反応が遅かっただけ。でも、止まれたよ」
「そ、そうだけど……」
「何? その顔は」
「な、何でもないわ」
「それならいいけど」
怒っていないということがわかった途端、イリアはどこか安堵していた。ソラが本気で怒ったということは一度としてないが、怒ったとしたら……どうなるか、わかったものではない。気絶するのは、確定済み。いや、それ以上のことが起こる。職業が職業なだけに、絶対に怒らせてはいけない。
「イリアが何を言いたいのかは、わかっているよ。だけど、それではいけないと思う。イリアは、オレとは違う生き方をしなければいけない。一緒では、いけないよ。オレは、諦めの方が多い」
「諦めちゃ駄目」
「その言葉、そのまま返すよ。イリアだって、夢を諦めるわけにはいかない。なりたいというのなら、なればいい。オレに、遠慮をすることはない。それに、そのように言われるのは嫌いなんだ」
言葉が終わると同時に、信号が青へと変わる。同時に、停車していた車が前進する。それに続くように、二人が乗っている車も前進する。その後、暫く沈黙と重い空気が車内に漂う。イリアは視線を横に向け流れていく明かりを目で追うが、疲れの影響なのかどこか虚ろな目をしていた。
空調を効かせているので、暖かい車内。外気の寒さと違い、この暖かさは別の意味で眠気を誘う。それにソラに迎えに来てもらったという安心感も混じり、再び眠りの底に落ちそうになる。
「寝るか?」
「大丈夫」
「そうか」
「さっきの話だけど、頑張ってみるね。だから、卒業したら何か欲しいな。えーっと、洋服とか」
「洋服?」
「うん。可愛い洋服があったから……」
突然の願いにソラは困惑してしまい、即答を避けた。イリアの性格上それほど高額な物をねだるということはないが、幼馴染に甘いと周囲から何を言われるかわかったものではない。特に、ソラの一番の友人が煩い。色恋沙汰に関しては、真っ先に飛びつく性格だからだ。