エターナル・フロンティア~前編~

第二話 捕食者


 燦燦(さんさん)と心地いい日差しが差し込む室内で、ユアンは黙々と仕事をしていた。彼は、裏の世界に精通している。そのせいか、資料に書かれている内容に、クスクスと肩を震わせ笑う。

「……立場の差」

 掌サイズのプレーンマフィンを齧りつつ、ユアンは囁くように呟く。彼は現在、実験の結果が気に入らないのか、他の科学者(カイトス)が書き記した資料を眺めていた。その合間を見て、女性の部下から貰った菓子を昼食代わりに食していた。そして時折、ブラックコーヒーを胃袋に流す。

 プレーンマフィンの味は、どちらかといえば普通。正直、店で売っている方が美味い。しかし、食べられないわけでもないので、ユアンは次々に胃袋の中に入れていく。だが、量が減らない。

 どれだけの量を作ったのか。ディスクの上に置かれているプレーンマフィンに、げんなりしてしまう。

「これが、彼の菓子なら……」

 ユアンが言う「彼」の将来は、ソラのことだ。彼の菓子作りの腕前は知っており、一流のパティシエといって過言ではない。彼が作ったプレーンマフィンであったら、幾つも食べることが可能だった。

 しかし部下が作ったプレーンマフィンは胃が凭れ、二個で限界を迎える。ユアンは溜息を付くと、一気にブラックコーヒーを飲み干す。その後、もう一杯コーヒーを淹れに行った。

「女は料理の腕前が……」

 彼が理想としている女性は、料理が上手い人。それに毎日のように、料理は食べる。料理が下手な人物に引っ掛かってしまった場合、これほど災厄な生活はない。ユアンは、この点は妥協したくなかった。

 しかし、ユアンに好意を抱いている人物達は、その点に気付いていない。だからこそ、砂糖の量が悪いプレーンマフィンを普通に手渡す。お陰で、彼女の評価が一気に地に落ちた。

「ふう、美味い」

 淹れたコーヒーを一口飲むと、のんびりとした時間を過ごす。そして何気なく、視線を窓に向けた。

 連日の徹夜で疲れた身体に、ブラックコーヒーが染み込む。真っ黒い液体が疲れを流しているのか、少しずつ疲れが消えていく感じがした。

 その時、ディスクに置かれていたパソコンが鳴る。この音は、メールが受信された音。ユアンは部下からのメールと決め付けているのか、後で見ればいいと思い、窓から見える風景を眺めつつ、コーヒーの味を楽しんだ。
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