エターナル・フロンティア~前編~
「御用は、何でしょうか」
ティーカップを受け皿の上に置くと、ユアンは話を切り出す。
ユアンからの言葉にレナは深い溜息をつくとソファーに腰掛け、彼を呼び出した理由を話していく。
その声音は、何処か重い。
「貴方の噂を聞いているわ」
「……悪い噂ですね」
「ええ、そうね」
第一線から退いても、ユアンを含め能力研究を行なっている者達の行動は嫌でも耳に届く。年々、過激さを増す実験と研究。レナが研究所に席を置いていた時は、これほど酷くはなかった。
切っ掛けは何か――
しかし、理由を尋ねることはしない。尋ねなくても、世界情勢を含めて考えれば理由は自ずとわかるからだ。
「恨み……からかしら」
「そうでしょう。人間、原動力が必要です。僕にとっての原動力は、義父に対しての恨みです」
「あれは、そうね……」
日頃のユアンの行動を嗜める為に呼んだのだが、彼の過去について話が移ると、それが言えなくなってしまう。ユアンの義父があのような行動を取ったのは、ある意味レナにも責任があったからだ。能力研究の発端は、レナを含め数人の科学者達が行なった些細な研究から。
当初は不可思議な力の解明を名目とした、非人道的なものではなかった。しかし、徐々におかしな方向に歪んでいく。
その中で計画されたのが、人工的に能力者(ラタトクス)を生み出すこと。だが、それは難題が多かった。何処で、人間を手に入れるのか。いや、それ以前に理論時点で科学者の頭を悩ませていた。
その為、計画はお蔵入りとなってしまったが、これに目を付けたのがユアンの義父リダード。彼は孤児院からユアンを金で買い、実験と研究を繰り返していった。しかし、成功はしていない。
「何故、お蔵入りに……」
ユアンの指摘に、レナの表情が曇る。内心「お蔵入り」の意味を話したくなかったのだ。しかしユアンは、その計画の犠牲者。贖罪の気持ちは強く、彼女はポツリポツリと語っていく。
お蔵入りの主な理由――それは、動物実験の失敗が関係していた。だが、それくらいでお蔵入りはおかしい。