エターナル・フロンティア~前編~

 彼女の本音に、口許が緩んでいく。しかし嘘偽りのない答えに、何処か安心した表情も作っていた。今まで出会ってきた者は、偽りの言葉を言い自分を守ることに全身全霊を尽くす。

 だが、流石レナ・コーネリアス。

 彼女の強い部分に、再び尊敬の念を抱く。

 過去の出来事を話したことで疲労感が蓄積してきたのか、レナは紅茶を飲み気持ちを落ち着かせていく。

「貴方は、奇跡よ」

「僕は、奇跡は信じません」

「無宗教ね」

「この時代、宗教は廃れています。それに、それぞれの惑星(ほし)にいる神が全員、救いを与えてくれるわけじゃない」

 人類が宇宙に出る前であったら、ユアンの言葉は「不謹慎」と、言われてしまうだろう。しかし多くの種族が集まる今、宗教の概念が曖昧となり、信仰は弱い者が縋る対象となった。

 それに科学者が、信仰に左右されるわけにはいかない。現にユアンは、神の領域に近付こうとしていた。そのような人物が信仰を持ち、その宗教の教えに従っていたら何もならない。

「神とは何か。神は、目に見えない。一心に祈ったところで、それが通じる保障もない。それなら、自分自身の力で生き抜く方が何倍もいい。そのようにして僕は、あの世界で生きています」

「昔と同じね」

「変わるなんて、できません」

 変わった瞬間、他の者に足を掬われてしまう。一瞬の隙が出世の道を塞ぎ、望む世界で生きることができない。ユアンは、上れるところまで上りたいと思っていた。その為、貪欲に動く。

「そうね。それと先程「奇跡」と言った意味を貴方は、間違って捉えてしまっている。本当の意味は……」

 彼女が言う本来の意味にユアンは目を見開き、珍しく動揺していた。レナが「奇跡」と言ったのは、ユアンの身体が崩れずに済んだということだった。動物実験では、奇形を生み出してしまう。だとしたら、同じ生身の人間の肉体でも同等な現象が起きてしまうものだ。

 しかし、ユアンは違っていた。幾度も幾度も実験と研究を繰り返しても、ユアンはユアンのままで済んだ。レナは、その点を「奇跡」と言ったのだった。だが、彼女は重要な部分を見落としていた。肉体の面での奇形は免れたが、精神面では歪み悪魔を生み出してしまった。
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