エターナル・フロンティア~前編~

「有難う」

「礼を言われるまでのことは、していない」

「でもソラが迎えに来てくれなかったら、徒歩で帰宅になっていたわ。それに、風邪をひいていたかもしれない。だから、本当に助かったわ。この時刻なら、ギリギリ怒られないと思う」

「何だ、悪い気持ちがあったんだ」

 それは裏を感じさせるような台詞であったが、イリアはその意味を理解していない。そんな態度にソラは頭を掻くと、彼女に車から降りるように促す。このようなところをイリアの両親に見られたら、煩くて仕方がない。それにそれは小言に等しく、気分が滅入ってしまう。

 溺愛しているという言葉が似合う人物。異性に――それもソラに送り迎えをしてもらっていると知ったら、どのような反応を見せるか。イリアの両親――特に父親は、ソラのことを毛嫌いしていた。娘に対して異性であるソラは何かと鬱陶しいらしいが、それ以前に複雑な問題を持つ。

「本当に、有難う」

「いいよ、何回も」

「う、うん」

「だから、降りる」

 その言葉にイリアは車から降りると、重い荷物を引き摺りながら自宅に向かう。その後姿を見つめつつ、溜息をつく。ソラが言った「悪いという気持ち」という言葉の意味は、つまり「そういう気持ちがあるなら、人間関係は円滑に行える」という意味が含まれていた。

 イリアの態度を見るところ、友人との関係はいい方ではない。繰り返し嫌なことをされていながら付き合っているというのは、逞しいとしか言いようがない。しかしそれによって周囲が迷惑しているということは、イリアは気付いていないだろう。だからこそ、大勢が苦労する。

 それはソラだけではなく、クラスメイトも同じように思っていた。「もっと、シッカリしていれば……」と言い続けるが、いつまでもイリアを庇い続けることはできない。そのことをどのようにわかってもらうかは意外に難しく、性格に問題があった。また、あれではいい鴨だ。

「卒業したら社会人になるというのだから、もう少しは……あのままでは、就職もできないだろうし」

 そのように呟いたところで、聞いてくれる相手はいない。このままの性格で社会に出るようになったら、本当にいいように利用されてしまう。ソラは幼馴染が鴨にされる姿は見たいとは思わないが、口出しする問題でもない。それに自分自身で気付かなければ、欠点は直せない。
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