エターナル・フロンティア~前編~

「電話をしたけど、出なかったから……」

「当たり前だ」

 情けないことに返す言葉が見付からず、まさに父親が言うことが正論であった。予定通りに帰ってくると思っていた父親は、それなりの準備をして待っていたという。つまり迎えに行く為に、半日仕事を休んでいたのだ。それだというのに、イリアは帰ってこなかった。

「まったく、いつから約束を守れない娘になったのだ。アカデミーの件では仕方がないが、今回は……」

「ご、御免なさい」

「まあいい。次からは、気を付けなさい」

「……はい」

「旅行は良かったか?」

 イリアは、震える声音で父親と会話をした。「楽しかったか?」とか「危なくなかったか?」など――

「うん。何とか……」

「そうか。それならいい」

 本当は楽しい思い出などないとは、口が裂けても言えない。父親は友人達と仲良くやっていると思っているので、不必要な心配はしてほしいとは思わなかったからだ。しかし努力したところで、いつかはわかってしまう。それに、幼馴染であるソラとの関係さえも――

 ふと、父親の言葉が止まり誰かの名前を口にしようとしたが、夕食ができたという母親の声がそれに重なる。イリアは母親の言葉に返事を返すも、父親からの言葉に対しては反応を見せない。

 イリアからの返事ないことに父親は諦めたのか、何も言わず階段を下りていってしまう。足音だけが静かに響き、イリアの心を深く抉り取っていく。それが無性に切なく、目元に涙が浮かぶ。

「どうして……」

 父親は、誰の名前を言いたかったのか――

 その名前を言う理由を、イリアはわかっている。だから空腹を知らせる音が鳴っても、一階に降りようとはしない。ベッドの上に置かれた荷物から、シャトルの中で読んでいた小説を取り出す。それを持ちパソコンが置かれている机の前に行くと起動させ、椅子に腰掛ける。

 何故、ここまで相手を嫌うのか。それは一方的な感情であって、ソラが悪いわけではない。だが、そのように思っている人物は意外に少ない。それにこのことは簡単に済ませられる内容ではなく、だからこそイリアは父親に対し“反発”という感情を生み出してしまう。
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