エターナル・フロンティア~前編~
(あいつは……)
ユアンの私生活は謎に包まれているが、彼がペットを飼育しているとは聞いたことがない。
それに彼は馬鹿ではないので、裏のルートを使用してまで取引禁止とされている保護動物を手に入れることはしないだろう。なんだかんだで、彼は用心深い一面を持っているのだから。
そのようなことを考えていると、レナはソラの考えに気付いたのか、裏取引を行なっている者達の感想を言い出す。
第一声は、相手を貶すもの。しかし、本気で貶しているというわけではない。レナは普通の人間より複雑な人生を歩んでいるので、全てが奇麗事で済まされるものではないと知っているからだ。
なんだかんだで、人間は「欲」から逃れることができない。それが個人個人で形が違うだけで、誰もが持っている。
「で、その狐は……」
「今も、飼育しているわ」
「……でしょうね」
もし保護されたというのなら、一大ニュースとして放映されている。だが、その話は聞いたことがない。どのような生活を送っているかは不明だが、平和に暮らしていることをソラは願ってしまう。
「行きましょう」
「婆ちゃん?」
「嫌な人を思い出して」
「狐の飼い主?」
「そう」
ソラはカディオほど人の気持ちを読むのが上手い方ではないが、今回は瞬時にレナの心情を読み取ることができた。
動物園にいて、暗い気持ちを抱いているのはいいものではない。何せ、楽しむ為にやって来たのだから。ソラはレナに素敵な笑顔を向けると、両手で彼女の背中を押し敷地の奥へ連れて行った。
「ああ、ソラ君」
「婆ちゃんは、笑顔が一番ですよ」
「……有難う」
優しいソラの言葉に、レナの心の中に温かいものが広がっていく。互いに血は繋がっていないが、今の二人の姿は完全に祖母と孫そのもの。それを表しているのが、周囲の反応だ。仲良く駆けているソラとレナの姿に、すれ違う人々が温かい視線を送り笑みを浮かべていた。