エターナル・フロンティア~前編~
第四話 明確な境界線
「ご苦労」
それが、カディオに向けられた言葉。それに対しカディオは、言葉を失う。彼の目の前で言葉を発したのは、彼の直属の上司。勿論、上司からの命令を受けていない。まさに、寝耳に水だ。
しかし相手はカディオが命令に従ったような言葉を繰り返し、彼の心を痛めつけていった。
「知りません」
カディオは反論する。いや、しなければいけなかった。本当に、何も知らないからだ。だが、上司からの言葉は無い。ただ「よくやった」と褒め称え、カディオの行動を絶賛する。
刹那、彼は親友のソラの存在が気に掛かる。ソラはカディオを一緒に、研究所にやって来た。しかし到着し車から降りたと同時に、複数の人間に取り囲まれた。それは、手馴れた行動。瞬く間のうちに二人は切り離され、別々の場所へ連れて行かれる。カディオは自身の上司のもとへ。
そして、ソラは――
「彼は……ソラは、どうしたのですか?」
「あの者は、科学者(カイトス)に連れて行かれた」
上司の言葉に、背筋が嫌な汗が流れ落ちていく。彼等に連れて行かれたということは、何をされるのか瞬時に理解できる。特に一部の科学者は、ソラを実験道具として扱いそのようにしか見ていない。
親友の身を心配したカディオは踵を返し上司の部屋から出て行こうとするが、鋭い声音で制された。
「何処へ行く」
「彼のもとへ」
「駄目だ」
「何故です」
「命令だ」
流石に、その言葉は強力な効果を齎す。彼が就いている職業は、上司の命令は絶対。逆らっては、現在置かれている地位を全て失ってしまう。一瞬「ソラの為なら――」と思うが、果たして彼が喜ぶかどうかわからない。それに迷いがないといったら、嘘になってしまう。
交じり合う感情の中で、葛藤を繰り返す。そして彼が出した答えは、上司に従うというもの。心の中で、何度も謝る。と同時に、無力な自分を呪う。力がない者がどのように足掻いても、勝つことはできない。それどころか、下手に足掻けばソラの立場がますます悪くなってしまう。