エターナル・フロンティア~前編~

 ユアンの考えは、ひとつに決まっていた。どのような方法を用いても、ソラを生かすこと――

 的確に指示を出していくと、自身は予想外の結果に毒付く。表情や言動に表すことはしなかったが、ユアンは内に怒りを溜めていた。今日は、やたら神経を逆撫でする出来事が続く。

 ついていない。たまには、このように不幸が続く。そのように言い聞かせ気持ちの切り替えができればいいが、続いた出来事が出来事なので蓄積した感情が治まる気配はなかった。

(くそ)

 再び毒付いた時、ユアンの足下を黒い物体が駆け抜けていく。黒い物体の正体は、ソラが大事にしている子犬。大事な人間を救いに行こうとしているのか、ユアンや科学者達にしてみたら邪魔な存在だった。

 最初は子犬に対し、甘い感情を抱いていた。小さい生き物だからと大目に見ていたが、今は不快そのもの。ユアンは血塗れのソラの側で鳴き続けている子犬の側へ行くと、細い首を締め上げようと手を伸ばす。刹那、伸ばした手に激痛が走り手の甲から血が流れ出した。

 怪我の原因は、すぐに判明する。瀕死の状況にあるソラが子犬を守る為に、力を使用したのだ。

「だ、大丈夫ですか」

「手当てを――」

「いや、構わない。それより、早くしろ」

 どのような状況に置かれてもユアンは冷静沈着で有名だが、今日は雰囲気が違う。普段と違うユアンの状況に、他の科学者達は動揺を隠せないでいる。中には、身を縮めている者もいた。

 しかしグズグズしてソラの身に何かが起きた場合、ユアンの機嫌が更に悪くなってしまう。科学者達はソラを治療する為に、別の部屋へ連れて行く。その後を駆け足で追い駆ける子犬であったが短い四肢で懸命に走っても距離が開いてしまい、途中で閉まった扉に額をぶつけてしまう。

「何をしている」

 額をぶつけ軽くめまいを起こしている子犬の側に行くと、ユアンはやれやれと肩を竦めて見せる。すると、復活を果した子犬がユアンの足に噛み付き、大事な人間をかえせと訴えていく。

 だが、かえせといっても簡単にかえすことはできない。ソラは今、適切な手当てを行なわないと命を落としてしまう。それに手当てを終え安定した後、再びデータの収集を考えていた。ユアンは子犬の首筋を掴み目線の高さまで持ち上げると、黒い鼻を人差し指で押し潰した。
< 534 / 580 >

この作品をシェア

pagetop