エターナル・フロンティア~前編~
どいつもこいつも――
子犬相手に感情をぶつけることは、自身を更に惨めにする。そのことはわかっているのだが、珍しく感情の調節が利かない。
このようになってしまった切っ掛けは、判明している。一番の原因は、ソラを捕まえ戦いの場を作った人物。その人物の顔が脳裏に過ぎった瞬間、ユアンの顔が今まで見たことのない形相へ変化した。
彼の変化した表情を間近で見た子犬は彼の本心を本能的に感じ取ったのか、何度も鳴き続ける。
しかし子犬が懸命に頑張っても、ユアンの迫力に勝てるわけがない。それに今までは相手が子犬ということで手加減をしていたが、ソラがいない今彼は小さい生き物相手に牙を向く。
ユアンは手首を振り、子犬を床に叩き付けようとする。だが、一人の科学者の声で手が止まった。
「何だ」
「出血が多いそうです」
「……わかった、行く」
これくらい自分達で何とかできないのか――と、心の中で呟く。ふと「出血」という単語を聞いた時、いいことを思い付く。刹那、ユアンの口許が緩みどす黒い物が怒りの感情を覆う。
「こいつを持っていろ」
「えっ! ど、どうすれば……」
「餌でも与えておけ」
「は、はい」
と言われたところで、押し付けられた者は生き物を飼った経験を持っていないので、子犬がどのような物を食べるのか知らない。だからといってユアンからの命令なので、下手に断れない。
オドオドとしている人物を一瞥した後、ユアンはソラが治療を受けている部屋へ急ぐ。彼の頭の中はソラの治療方法の他に、怒りの感情を覆い尽くしたどす黒い感情に付いて考えていく。
数多くの方法を考えていた。
第一に考えたのは毒殺。しかしそれでは面白くないと子供の方を責めようと考えを改めたが、どす黒い感情が訴える。「早く殺せ」と――
ソラが治療を受けている部屋の前に行くと、歪んだ顔が普段の穏やかな表情へ変化する。それにより、今まで危ない考えを抱いていたことを誰も気付かない。部屋に入った瞬間、慌しく動き回る白衣を着た人間が視界の中に飛び込んでくる。そして一拍置いた後、複数の人物が声を掛けてきた。