エターナル・フロンティア~前編~

「安定しません」

「そう……か」

 そう呟いた後、ソラのもとへ向かう。ソラは今、治療用のベッドに横たわらせ数多くの機械を取り付けられている。彼が来る間も大量の血を吐き出し続けていたのだろう、纏っている服が赤い。

 また、意識が朦朧としているのか視線が定まっていない。普段の彼とは違い今にも命の炎が消えそうな姿に、ユアンはソラの顔に自身の顔を近付けると鋭い口調で言葉をぶつけていく。

 お前は、この場所で死ぬのか?

 本当にいいのか?

 彼の言葉に対し、ソラからの返事は返ってこない。ただ、定まらない視線で空を眺めているだけ。

 実験の対象に対し、特別の感情を抱いていないユアン。しかしソラ相手に必死に言葉を掛けている姿に、周囲にいた者達は互いの顔を見合す。まさに、別人を見ているようだった。

「ラ、ラドック博士」

「お前達は、お前達の仕事をしろ」

「は、はい」

 話しかけるなといわんばかりに、鋭い視線を向ける。その氷のように冷たい瞳に、誰もが息を呑みそれ以上の言葉を発しようとはしない。ただ無言で頷き、ソラの治療にあたった。

 彼女はいいのか?

 その言葉に、ソラの身体が反応を示す。そして徐々に朦朧としている意識が戻ってきたのか、視線がユアンを捉える。

「……悲しむ」

 イリアの反応と態度で、彼女がソラに対しどのような感情を抱いているかわかっている。またソラの方もイリアをどのように思っているのか、大体を把握していた。だが、それではまだ弱い。

 ふと、いい内容を思い付く。ユアンは怪しい笑みを作ると、ソラだけに聞こえる声音で囁く。

 イリアの父親について教える。

 ユアンが発した言葉は、予想以上の効果を齎す。生気が失われていた瞳は光が戻り、鋭い眼光がユアンを捉える。ソラが復活してくれたことにユアンは満足そうに頷くと、頭を押さえ付けた。

 身体が弱っているとはいえ、ソラが体内に有している力は凄まじいものがある。復活と同時にその力を使用されたら、ユアンを含め周囲にいる者達は無事ではすまない。
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