エターナル・フロンティア~前編~
「小匙だったの?」
「文字は読もうな」
「インスタントコーヒーは、大匙じゃないの?」
「全部が全部、同じ分量じゃないよ。これは、本場のコーヒーだから。タツキからの貰い物だけど」
彼が無意識に発した“タツキ”という名前にイリアは、反応を示す。時々台詞の中に登場し、面白おかしく話すソラ。無論、両者の付き合いも長いことを知っており、イリアもタツキと何度か対面している。彼にとってのいい相談役であり、体調の管理もして貰っている大事な人といっていい。
「タツキさんって、いい人よね」
「どうしたんだ、いきなり」
「うん。ちょっと……」
「何かあるのなら、直接聞くといいよ」
「大丈夫?」
「タツキは、煩く言わないよ。それに、イリアが行くのなら文句は言わないと思う。そういう人だから」
その言葉に、イリアは頷く。確かにソラが言っているように、タツキはイリアが出会ってきた人物の中では付き合い易い。何より親身になって相談に乗ってくれるのが有難かったが、同時にタツキのプライベートが気になってしまう。それにより、悲しい表情へ変化していく。
「ねえ。タツキさんって、彼氏いるの?」
「それを知って、どうするんだ。確かに、タツキには彼氏らしい人物はいるらしいけど。でも、付き合ってはいない。本人は、否定しているからね。オレとしては、いい関係だと思うよ」
早口でそう語ると、苦いコーヒーが入ったマグカップ持ちキッチンへ向かう。そして徐に中身をこぼすと、新しく淹れ直した。あのまま飲み続けていると、本気で病気になってしまう。
「……御免」
「飲むことができないコーヒーが出てくるとは、普通は思ったりしないよ。次は、自分で淹れるよ」
「……うん」
「で、アカデミーは?」
ソラは、淹れ直したコーヒーを飲みつつ尋ねる。いつもであったら、このような時間帯にイリアが訪れるということはない。アカデミーを休んで来ているということはないと思うが、勝手に休んだと判明したらイリアの両親が何と言うか――彼等は、ソラに必要以上に厳しい。