エターナル・フロンティア~前編~

「そう、お金ないの。だから、お金を貸して……」

「親に、借りればいいじゃないか。それに、旅行中に自分が何をしたのか忘れていないよな」

「わかっているわ。だから親には、言えないの。別にお買い物に使うわけじゃなくて、卒論で……」

「無理して、遠出しなくてもいいんじゃないか。図書館で調べて書けば、十分立派な卒論になると思う」

 ソラはコーヒーを一気に飲み干すと、使用していたマグカップをキッチンまで持って行き慣れた手付きで洗う。その後のソラは無言のまま別の場所へ行こうとしていたので、イリアは彼の後を追う。するとソラは足を止めイリアの顔を凝視すると「ついてくるな」という雰囲気を放つ。

「何故、ついてくる?」

「だ、だって……」

「金は、駄目だ」

 厳しい言い方に、イリアは言葉を詰まらせてしまう。しかしソラは悪気があって言っているのではなく、たとえ相手が幼馴染であっても金の貸し借りは滅多に行わない主義だった。

「どうしても?」

「ああ、勿論。で、オレは今から風呂に入る。だからイリアは、早く研究所に行った方がいい」

「……ソラ」

 切なそうに自分の名前を呼ぶイリアに、ソラは渋い表情を作る。だからといってソラは誰かに金を貸せるほど裕福な生活をしているわけではなく、今の水準の生活を保つだけで精一杯と話す。すると現在の金銭状況を聞いたイリアは納得してくれたのか、彼に要求することを諦めてくれた。

「わかったわ」

「努力をしていれば、いい卒論を書ける。それに、イリアがいたら風呂に入る準備ができない」

 その何気ない言葉に、イリアの顔が一気に紅潮する。ソラが言わんとしたことを理解したのか、か細い悲鳴を発する。そして一言「帰る」と小声で囁くと、足音だけ残し立ち去った。

「まあ、頑張れ」

 嵐のような来訪者が去り、再び朝の静寂を取り戻す。ソラは窓から外の様子を伺うと、駅に向かい走っていくイリアの姿を発見する。足を止め一度振り向くも、ソラが見ていることに気付いていない。イリアが行こうとしている研究所。あそこは、権力と欲望が集まった場所といっていい。
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