ラズベリー


彼から離れようと一生懸命に腕を押しのけようとした。


不意に顔を上げると青い仮面とピンクの仮面。


目の穴からお互いの目がぶつかり合っていた。


小さな、小さな2人の駆け引き…。


「ごめんなさい……、
ごめんなさい。」


出てきた言葉は謝罪ばかり。


彼女のピンクの仮面の奥の瞳に大粒の涙が浮かんでいた。


「また、逢いたい。」


抱きしめたまま、耳元にささやく。



優輝の切実な表情に私は気付いてしまった。


優輝はきっと一目惚れをしてしまったのだろう。


存在することのない人物に…。


胸がキリキリと痛む。



どうして…?


私ではない、私なの?



少女の目元から涙がこぼれ落ちた。





ぼろぼろと涙を仮面の中でこぼす少女。


俺の腕の中で涙を流す、桜色のドレスの少女。


その少女は華奢な体を震えさせていた。


そして俺の言葉に対して、少女は頭をずっと横に振るばかりだ。

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