ロスト・クロニクル~前編~
「有難う」
「この前、このあたりを勉強していた」
「流石! エイルの読みは、鋭いな」
エイルと呼ばれた少年は口許を緩めると、手元の魔導書に視線を落とす。
今、彼等が学んでいるのは魔法理論。
そして先程の質問内容は、その理論を独自の解釈を加え語るものだった。
魔法理論は魔法を学ぶ上では一番重要となる部分なので、教師達から徹底的に叩き込まれる。
しかしそれを正確に理解している生徒は僅かなので、エイルのように魔法理論を理解している生徒が重要な役割を果していた。
その大きな理由として、質問された時の回答の手助け。
もし、エイルのような人物がいなければ全滅。
勿論、教師達もそのことを知っている。
知っていながら注意を行わないのは「他人から聞いた内容であったとしても、身に付けばいい」という考えが根底に存在しているからだ。
しかし、全員が黙認しているわけではない。
無論、中には厳しく咎める教師も存在する。
だが、暗黙の了解と化しているのも事実だった。
「偶然だよ」
「また、頼むよ」
その言葉にエイルは「了解」と軽く返事を返すと、再び視線を窓に向け広がる美しい風景を眺めた。
新緑を芽吹かせた木々の隙間から差し込む陽光が、不規則に揺れる葉によって様々な形を作る。
それらは湖面のように煌びやかに輝き、美しい宝石のようだ。
また鳥達は、互いの声を自慢しているかのように唄う。
それらは、訪れた季節を謳歌しているかのように思える光景だ。
春の訪れ――
そのことを感覚で感じ取ったエイルは、ついついウトウトとしてしまう。
いやそれを通り越して、眠いというのが正しいだろう。現に、エイルのように眠気と戦っている生徒が数人いる。
眠気に敗北してしまったら一気に夢の世界へ旅立ってしまい、女教師の怒りが飛ぶ。
それは何としても避けなければいけないので、エイルは何度も顔を振り眠気を飛ばすと視線を真剣な表情で授業を行っている女教師に向けた。
真面目に授業を受けなければ、単位に響いてしまう。
メルダースでの単位の計算方法は、他の学校とは少し異なっていた。
主にテストの不出来。
または授業の出席回数に、日頃の生活態度。
危険なことを学ぶ学園だけあって、細かい部分で厳しく分けられている。
だから稼げる時に稼いでおかなければ、単位を落としてしまう。