ロスト・クロニクル~前編~
日頃、多くのことを学ぶ場所。
やはり、綺麗な環境で学びたいと思う。
しかし仕事は、ある意味で重労働な仕事であった。
◇◆◇◆◇◆
エイル今、学園の裏にいた。
井戸の近くに大きなタライを置き、其処に水を張る。
そして山のように詰まれたシーツを無造作に取ると、タライの中に入れていく。
今回の仕事は、寮で使われているシーツの洗濯。
寮生活をしている生徒の数が数だけに、その量も半端ではない。
両手でシーツを押し込みたっぷりと水分を含ませると、地面に置いてあった瓶を手に取る。
ラベルに「洗濯用液体」と書かれているそれは、汗シミなどを落とす為に特別に調合された代物。
これを調合したのは、メルダースで研究者志望として学んでいる生徒。
何でも「いつもお世話になっているから」という心遣いらしいが、本当のところは不明。
一部の噂では「好印象を持ってもらう為」という話もあるが、洗濯のスピードが速まったことには感謝できる。
瓶を開けた瞬間に漂うフローラルな香りは、調合した生徒の好みだという。
シーツを洗濯したその日から数日、この香りが漂う中で眠る。
不評といえば不評だが、これを使った方が綺麗になるのでその意見は却下される。
つまり、洗濯をしてもらっているという恩があるからだ。
フローラルな液体を数滴、タライの中に垂らしていく。
その瞬間、ジュワっと溶けるような音がした。
そしてブクブクと泡がたち、まるで実験を行っているようにも見えた。
はじめてこれを使用した時、エイルは戦いたという。
それほど洗濯用液体とは思えない、代物だから。
エイルは素足になり裾を膝まで捲り上げると、両足をタライの中に入れる。
弾ける泡の感触が、何ともこそばゆい。
だがこのまま両足をつけたままにしているわけにもいかず、体重を掛けシーツを踏みはじめた。
「汚い」
透明の水が、徐々に変化していく。
茶色とも黒ともとれる変色の仕方に、エイルの顔が歪んでいく。
この時期は、大量の寝汗をかく。
それに、新陳代謝の激しい若者が大量に暮らしている。
今回の洗濯の件でエイルは、メルダースで働いている人達の苦労を痛いほど知った。
だが、この苦労を知っている生徒は一部のみ。
エイルのように夏休みに入っても学園に残っている者は少なく、更に手伝いをしているとなればその数は限られている。
つまり、誰もこの苦労を褒めてくれないのだ。
いや唯一褒めてくれるのは、働いている人達だろうか。