ロスト・クロニクル~前編~
メルダースで出題されるテストは、難しいことで有名だ。
それを表しているのがテスト期間、各教室から響き渡る低音の唸り声。
その唸り声の正体は、テストを解くのに苦しんでいる生徒達が発しているもの。
難題の数々に誰もが頭を抱え、中には途中で解くのを諦める生徒も続出する。
テストで単位を稼ぐのは難しい。
それを知っているので、多くの生徒が懸命に授業を受ける。
(相変わらず、硬い授業だな)
エイルが受けている授業の担当は、セリアという名前の女性で堅物の教師だ。
彼女は怒らせると恐ろしく、遅刻や無断欠席・怠けは絶対に許さない。
一見物腰柔らかな女性のように見えるが、口を開けば地獄が待っている。
だからこそ、セリアの授業は油断できなかった。
「魔法を使う者は、日頃から規律を守らなければならない」というのがセリアの考え方であり、生半可な思考で使用していい力ではない。
正しい道を選択すれば、結果は自ずと付いてくる。
しかし異なる道を選択した場合、結果は遥か遠い場所に移動し、最悪自滅を招き身を滅ぼす。
それだけ、魔法という力は使い方に注意を払わなければならない。
使い方を誤れば、街ひとつ破壊してしまう。
それでも、ひとつだけ人気の点が存在する。
それは他人の意見で回答を述べることを黙認してくれ、流石にこの点も駄目という性格の持ち主であったら、大勢の生徒が「セリア」を嫌っている。
「これ、どういう意味だ」
ふと、エイルの隣で授業を受けている生徒が声を掛けてくる。
エイルは指で示された文章を横目で黙読すると、思わず眉を顰めてしまう。
これは攻撃魔法が書き記された魔導書で、授業内容とは異なる本を読んでいることに「何をしている」と、小声で相手に注意を促す。
「実習の予習」
「セリア先生は、危険だぞ」
「大丈夫だって」
本に書かれている内容は、授業でまだ学んでいない魔法だった。
「予習」という言葉で片付けられるものではなく、初級魔法での失敗は大怪我に繋がることはないが、誤って上級魔法を唱えてしまったら――
下手したら、術者が死亡する。
そして発動が未遂に終わった場合、反動は術者に戻ってくる。
しかし、その影響で学園の一部分を破壊してしまったら――それが故意でなかったとしても、後で待ち構えているものを考えれば普通は行わない。
そう、この学園最大とも呼ばれる「お仕置き」が待っている。