ロスト・クロニクル~前編~
「今、強力な守護者が存在します」
「強力?」
「その方は、元副隊長でした。今はフレイ様に代わって、隊長の座に就きました。立派な方です」
「なんだ、彼が父さんの後を継いだのか。彼なら安心だよ。強いし……それに、多くの人達が認めている」
その人に対しての感想を述べた後、エイルは再び歩き出す。
その感想に対しリデルは頷き返すと、エイルの後姿を眺めつつ後に続く。
そして、エイルがメルダースに入学する以前の出来事を思い出した。
あれは、リデルが親衛隊に入隊して数年が経っていた頃の出来事。
当時のエイルはまだ小さく、父親であるフレイに連れられよく遊びに来ていた。
あどけない表情、今では懐かしい。
自分が語って聞かせた魔法に付いての話が切っ掛けで、メルダースに入学する道を選んだとは――
正直、思っても見なかった。
だが、エイルはその頃から魔法に興味を持っていたというのは確かだった。
だから切っ掛けを与えた背中を押したのは、リデルで間違いない。
エイルがメルダースに入学が決定した時、リデルは「寂しい」という感情を抱いた。
何故、あの時そのような感情を抱いたのか。
今思えば「エイルが弟のように思え、心配だったから」というのが正しい答えだろうが、よくよく考えれば身分違いでおこがましいといっていい。
だが、身分でどうこう線引きするのを嫌うエイルに、それを言っては怒られてしまうので、リデルはそれを話すことはしなかった。
懐かしい出来事にリデルは、クスっ笑ってしまう。
その笑い声に反応するかのように振り向いたエイルは「何?」と、彼女に言葉を掛けた。
「いえ、昔のことを思い出しまして」
「昔? 嫌なことだったら困るな」
「エイル君が、小さかった頃です。あの時は、可愛かったですね。勿論、今でも可愛いですよ」
「今は、変わったよ。皆からは“腹黒”と、言われているし。これも、誰かの所為なんだけどね」
「そうなのですか」
「おかしいだろ?」
当時のエイルであったら、このようなことは言わなかった。
寧ろ生真面目な性格が、前面に表れていただろう。
メルダースに入学して四年、その間に体験したことは彼を大きく成長した。
このように簡単に毒を吐ける人物になっていたとは、リデルは思いもしなかった。