ロスト・クロニクル~前編~
昔のエイルしか知らない人間が今の彼を見たら、どのような感想を述べるのだろう。
その変わり方に、多くの者が驚くことは間違いない。
それほど、今のエイルは変わってしまった。
「確か、ご友人の所為とか?」
「お陰で入学当時にあったイメージと、変わってしまったよ。あいつと出会っていなければ、変わっていなかった」
「しかし、縁を切るご様子はないようで。それに話しているエイル君は、何だか楽しそうですね」
「切ったら、可哀想だから。そんなことをしたら、泣きついてくるよ。そういうことに関しては、素直なんだよ。まったくラルフは、プライドというものがないのか。少しは持ち合わせていいものなのに」
溜息を付きつつ、そのおかしな人物にエイルは評価を下していく。
エイルに、このように言われるラルフという名前の人物。
名門と呼ばれているメルダースにこのような生徒が在籍しているとは、リデルが勉学を学んでいた頃には考えられない珍事。
正直、受け入れたくない事実であった。
建物の一部を壊す、マッドな研究者――どうやらあれから数年の間に、メルダースは生徒の選び方を変えたに違いない。
そう思わなければ、一流の学園を卒業したというプライドが許さない。
「ひとつ、お聞きして宜しいでしょうか?」
「何?」
「そのご友人だけが、特別なのでしょうか? メルダースの生徒にしては……その……何て申しますか……」
「ラルフだけだよ」
「そうでしたか」
エイルの答えに安心したのか、胸を撫で下ろす。
今までメルダースを卒業した者なら、同じ反応を見せるであろう。
正直、あのような性格の生徒が在籍している事態あり得ないのだから。
「安心した?」
「は、はい」
「そんな顔をしなくていいよ。本当のことだし。それに、問題児として有名だから。そのことは、本人は否定していないけど。さて、手伝いを宜しく。それと、乾いているシーツがあったら取り込みも頼む」
ラルフに付いての話が盛り上がっていたので、いつの間にか目的の場所に到着していた。
エイルはシーツの洗濯の時に使用していたタライに洗濯物を無造作に投げ入れると、井戸から水を汲む。
そんなテキパキとしたエイルの行動を眺めていたリデルは、口許を緩めていた。