ロスト・クロニクル~前編~

「暗い話はここまでにして、早く洗濯をしてしまおう。シーツが乾いたら、色々と忙しいし」

「そうですね」

「そうだ。明日は、暇かな? 仕事がないようだったら、買い物に付き合ってほしいんだけど」

「構いませんが、宜しいのですか? 学園から出られるのは、限られた時間と内容によります」

「大丈夫。リデルが一緒だし」

 リデルが言いたいことは、わからないこともなかった。

 「必要最低限以外は、学園から出るな」そのように、フレイから言われていた。

 理由は簡単に説明ででき、所謂「過保護による心配性」というものだ。

 だが、外に出ないわけにはいかない。

 私物が、不足しているからだ。

「で、ですが」

「街の中で、騒動は起きないと思うよ。こう見えて、平和な街だから。まあ、時々は事件が発生するけどね」

「わかりました。何かがありましたら、私が処理いたします。フレイ様から、エイル君のことを――」

「いいよ。僕の身に降り懸かったことは、自分で何とかしないといけないし。流石に魔法でぶっ飛ばす……ということは、できないけどね。やったら、先生達が煩いし。怒られたくないよ」

 メルダースの生徒は、街の住人から目を付けられているという。

 そのことが関係し、トラブルはできるだけ避けたいと思うのが実情。

 しかし、時と場合がある。

 つまり「やられたらやる」ということだ。

 悪人に対して、エイルは容赦しなかった。

 そのことはラルフの件で、実証済み。

 そして今のところ、街で何かがあったという報告は受けていない。

 それだけ生徒達は、注意を払っている。

「良い心がけです」

「父さんに似てきたね」

「そうでしょうか? それでしたら、嬉しいことです。フレイ様は、尊敬をしておりますので」

「あまり、似ないでほしいな。口煩いのが二人になると、正直困るんだよ。今でさえ、煩いし」

 後半部分は、リデルの耳に届かないように囁く。

 もしリデルがフレイと同じ性格になってしまったら、精神的に悪過ぎる。

 グチグチとまではいかないが、長い小言は免れない。

 それに親衛隊の一員になった時リデルが上司となるので、口煩い性格に変わられると困る方が大きい。


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