ロスト・クロニクル~前編~
「ところで、何処に泊まるのかな?」
「この学園の部屋を利用させてもらいます」
「それなら、迎えに行くのは楽でいいね。そうだ、後で遊びに行っていいかな? 少し、話したいことがあってね。今回のことが決まったら、仕事を終わらせてしまおう。後の仕事も待っているし」
エイルは素早く靴を脱ぐと、タライの中に両足を入れリズミカルに服を踏み出す。
実に楽しそうに洗濯するエイル。
そんな彼の姿にリデルは満足そうに頷くと、彼の洗濯の手伝いを開始した。
◇◆◇◆◇◆
深夜を回った時刻――エイルは、静寂が包む学園の廊下を歩いていた。
今頼りになるのは眩しい月明かりと、手に持つランプの明かり。
「メルダースには幽霊が住み着いている」という噂が生徒の間で囁かれているが、床に影ができるほど明るい時に幽霊が出現するわけがないとエイルは自分に言い聞かせる。
しかし「怖い」どのように思っていても感情を持っているのだろう、徐々に歩調が早まっていく。
目的の部屋の前に到着するとエイルは足を止め、軽く扉を叩き部屋の住人からの返事を待った。
「エイル君。こんな夜分に……」
開かれた扉から顔を覗かせたのはリデル。
突然のエイルの訪問に驚き、動揺しているようだった。
「こんな時間だというのに……御免。リデルに聞いてほしいことがあって、無理だったらいいけど」
「それは、構いません。どうぞ、お入り下さい」
「有難う」
「何か飲み物を用意します」
「いや、いらない。話が終われば、帰るから」
招き入れられた部屋は、リデルがメルダースに滞在している間のみ使用が許可された部屋だった。
外からの訪問者を泊めるのを目的として作られているこの部屋の内装は、一般の生徒が使用している部屋より豪華だった。
その理由として、メルダースには身分が高い人物が訪れることが多いからだ。
この内装を生徒達が見たら、さぞかし羨ましがるだろう。
部屋の面積はエイルが使用している部屋の五倍で、豪華絢爛という言葉が似合う。
備え付けの寝台や家具、その他の調度品は一流の職人が作り上げた物。
特に素晴らしいのは、繊細な刺繍が目を惹く絨毯だろう。