ロスト・クロニクル~前編~

「エイルだって、驚いていただろ?」

「こんな姿になれば、普通は驚く」

「俺は普通だよ」

「……お前の思考を、一般レベルに持っていくな。そもそも、お前の思考は理解しがたいから」

 本音を言うエイルであったが、ラルフからの返事はない。

 どうやら自覚があるらしく、言葉を詰まらせる。

 その隙を狙ってエイルは鉢植えを投げ落とそうとするが、またもやラルフに邪魔をされた。

「やめろ! マルガリータちゃんを虐めるな」

「ふーん、虐めね。さて、ラルフへの質問です。この行為を十人に聞いた場合、何人がラルフと同じ意見かな?」

「……全員」

「その自信は、どこからくるのかな?」

「いやー、研究は様々なことを行わないと、結果が見えないし。それに、時として自信も必要だよ」

 何とも自分勝手な考えに、エイルはマルガリータを窓から落とすことを決意する。

 先程の質問の答え――それは、ゼロであろう。

 ラルフが育てるものに賛同する生徒など、まずいない。

「言っていることは真面目だけど、やっている行為は非常識。何も、マルガリータと名前をつけた花を実験に使わなくても。一生懸命に育てていたと思うけど……やっぱり、間違っている」

「マルガリータちゃんも、わかってくれている。この植物は、育て主に従順な心を持っている」

「……そうなんだ」

「そうだよ。エイルには、わからないと思うけど。愛情を持って育てれば、植物だって誠意を示すよ」

「何だか、ハリス爺ちゃんの台詞を聞いている感じが……いや、お前が言うと妙に胡散臭い」

 ふと、あることを考えてしまう。

 もしマルガリータが人間だった場合「わかってくれる」「自分の為に」という身勝手な理由で、相手を実験対象にしているのか。

 ラルフに恋人が……そのようなことは有り得ないが、もし恋人がいた場合を考えるとこれはこれで恐ろしい。

 事件に発展し、最悪の場合は捕まってしまう。

 そして裁判で有罪が確定し、汚い獄舎入り。

 その方が世の中の為になると思えなくもないが、恋人になる人物が可哀想だ。

 そうなる前に、ラルフに考えを改めてもらわないといけない。

 こんな友人であっても、エイルは心配する。


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