ロスト・クロニクル~前編~
「冷たいし」
「冬だから、当たり前だろ」
「代わりに洗濯して」
「嫌だね。誰がそんな汚いハンカチを」
「だって、俺達――」
「それ以上、言うな」
次の瞬間、ラルフの腹に手刀が入る。
無論、手加減を加えた攻撃だったが、入った場所が悪かったらしく、ラルフは腹を押さえ蹲ってしまう。
その姿に、生徒達の爆笑が響き渡る。
黒エイル全開の彼に、手加減という言葉はない。
エイルはラルフを躾するという、使命を帯びており教師達や生徒もそれを望んでいる。
望んでいるからこそ、誰も何も言わなかった。
「た、助けて……」
「それは、無理だよ。皆、傍観しているし」
「そ、そんな」
「誰も、お前を助けようとは思わない」
「酷いよ」
周囲に味方がいないと察したのか、ラルフは肩を震わせ涙を浮かべていた。
流石にそれを見たエイルは「やりすぎた」と思うも、夏に行われた決闘の件を思い出し、考えを改める。
あの後ラルフに同情したら、とんでもない目に遭った。
そう、いきなり攻撃を仕掛けられた。
「泣いても無駄だよ」
「……バレたか」
「ほう、やっぱり」
次の瞬間、ラルフ悲鳴が響く。
どうやら今の一言で、手が飛んだらしい。
朝から踏んだり蹴ったりの状況であったが、誰も救いの手を差し伸べてくれないので、泣く泣く冷たい水で洗濯をはじめる。
無論、エイルの監視の下で。
そして、洗濯は三十分掛かったという。
◇◆◇◆◇◆
洗濯を終えるとエイルは、嫌がるラルフを外に連れ出すことにした。
雪は止んでいたが、風が刺すように痛い。
その寒さに負け、ラルフはその場にしゃがみ込み動こうとしない。
エイルと同じようにコートにマフラー、それに手袋を身につけているというのにこれだけではまだ寒いようだ。