ロスト・クロニクル~前編~
その間も容赦ない攻撃が続く。
その大半がラルフに当たり、全身が雪だらけになっていく。
その時、事件が起こった。
それは、エイルの頭に雪の塊が直撃したのである。
無論、周囲から音が消えたことは言うまでもない。
それを見たラルフはか細い悲鳴を上げ、これから起こるであろう出来事に身体を震わせた。
勿論、雪合戦をしていた生徒も同じ気持ちである。
この学園で、エイルを知らない生徒はいない。
魔導研究会のぶっ飛ばした件は、あまりにも有名だ。
そして考えることはひとつ。
強力な魔法を使われる。
誰もが両頬に手を当て、悲鳴を上げていた。
殺される――物騒な考えであるが、それしか思いつかない。
無言のまま、頭についた雪を掃っているエイル。
その行動ひとつひとつが、恐怖の対象であった。
「街へ行こうか、ラルフ」
「えっ! う、うん」
「あれ? どうしたのかな」
「な、何でもないよ」
普段と変わらない口調に、ラルフは反射的に返事を返していた。
嵐の前の静けさと言うべきか、嫌な汗が流れ落ちる。
エイルは、何かをする素振りは見せない。
ただラルフの腕を引っ張り、校門に向かう。
ふと、エイルの足が止まった。
その瞬間、周囲にいた者達の間に緊張が走る。
雪合戦をしていた生徒達に視線を向けると、満面の笑みを浮かべ「謝罪は?」と、質問を投げかける。
次の瞬間、全員が平謝りをした。
「悪いことをしたら、謝らないと」
「そ、そうですね」
「それと、雪合戦は周囲に人がいない場所でやらないといけないね。こうやって、誰かにぶつけてしまう」
「わ、わかりました」
その言葉に、雪合戦をしていた者達は逃げるようにその場から離れていく。
そう彼等は、ラルフを狙って雪を投げていた。
その訳として「面白いから」という、ラルフにとっては可哀想な理由であった。
しかし、コントロールを誤りエイルに直撃。
それにより、誰かに悪戯をすると倍になって返ってくるという痛い教訓を得た。
勿論このようなことで、エイルは魔法など使ったりはしないが「ラルフ=巨大生物」のように、エイルもまた悪いイメージを持たれてしまった。