ロスト・クロニクル~前編~
「す、凄い」
「どこが、凄いんだよ」
「一瞬にして、追い払った」
「これも、全部おかしな連中の所為だよ。あのようなことが行われなかったら、平和な学園生活を送れたよ」
その「おかしな連中」という中には、勿論ラルフも含まれていた。
エイルは天才的な魔法の才能を持つ生徒というイメージと、無礼な人に対して問答無用で魔法をぶっ放す。
そんな相対するイメージを持たれている。
負のイメージの原因となったラルフに八つ当たりをするのも可能だが、今回は見逃すことにした。
それは「朝食を食べに行く」という理由があったからだ。
つまり、その理由がなければラルフは危なかった。
もしかしたら、朝から最悪なことが起こっていただろう。
それが回避されたことにラルフはホッと胸を撫で下ろすと、何も言わずに歩き出すエイルの後に続くかたちで街へ向かった。
白一色に染まった街リーズは、朝から活気があった。
いつもと変わらない朝の風景。
たとえ雪が降ろうとも、繰り返される光景は一緒だった。
子供達が元気に遊んでいる。
どうやら雪が積もったことを聞き、早起きをしたようだ。
ラルフは相変わらず、寒そうにしていた。
その姿にエイルは「街の子供を見習え」と言うも、ラルフからの返事はなし。
先程の雪合戦の流れ弾の影響で、身体が冷えてしまったようだ。
ラルフが風邪をひいたら困る。
そう判断したエイルはラルフの背中を押しつつ、目当ての食堂へ急ぐ。
食堂は大通りに面した場所に建てられており、メルダースの生徒の行き付けの店だ。
食堂の中に入ると同時に、店主の威勢の良い声が響く。
エイルは空いている席を見付けると、席に腰掛ける。
同時に、普段食べている料理を二人前注文することにした。
馴染みの店ということで「いつもの二つ」という言葉で通じるのが便利だ。
その証拠に、店主からの返事が早い。
「大丈夫か?」
「……寒い」
「まあ、あれだけのことをされたからね」
身体を小刻みに震わせているラルフに、エイルは言葉を掛ける。
彼の言葉にラルフは頷き返すが、何処か元気がない。
雪をぶつけられたことが相当ショックなのだろう、何度か溜息を付く。
相手は、見ず知らずの生徒。
それに、面白半分でやられたのだから傷は想像以上に深い。