ロスト・クロニクル~前編~
「まあ、悪気があって……」
「違う。エイルの黒い部分が、更にアップしたことが悲しい。お陰で、手が飛ぶ回数が増えた」
「……おい」
何を言い出すのかと身構えていたが、実にくだらない内容であった。
エイルは心配して損したという表情を浮かべると、横を向いてしまう。
そして、食事が運ばれてくるのを待つことにした。
「だって、朝から黒くなることはないだろ。いつもなら、昼間や夕方のことが多いから油断したよ」
「いつもお前がやっていることだ。冬以外は、元気だよな。だから、お前が嫌いな冬に仕返し」
まさに「身から出た錆」というところだろう。
普段このような悪さをしなければ、エイルは何もしない。
つまりラルフが大人しく生活していれば問題ないのだが、無理なものは無理。
彼は、根っからの研究者。
探究心と好奇心が身体を動かし、周囲に迷惑を掛ける。
そのことに自覚は一切ないので、エイルが黒くなりそれを教え込んでいる。
ただ、それさえわかっていない。
「エイルって、冬は元気だよね」
「僕の故郷は、毎年雪に沈む」
エイルの故郷の話に、何やら深く考え込む。
その姿に、エイルは嫌なことを思い出した。
それは「故郷に行ってみたい」と、ラルフが言い出したことであった。
しかし、この地方の冬で寒がっているラルフ。
クローディアに来たら、固まって動かなくなってしまうだろう。
だが、逆を考えればそれは素晴らしいことだった。
ラルフが凍り付いてくれたら、煩い声を聞かないで済む。
それに凍り付いたぐらいで、ラルフは死にはしない。
タフの一面を有しているので、溶かせば復活を果すだろう。
溶かせば復活――こうなってしまうと、人間を超越した存在。
もしかしたら、ラルフは人間の皮を被った別の生き物。
此処までおかしな一面を見ていると、そのように思ってしまう。
「来るなよ」
「えー、俺達――」
「駄目なものは駄目だ」
エイルにしてみれば、ラルフを両親に紹介したくはなかった。
何故なら、ラルフという友人がいることを両親に伏せているからだ。
エイルの両親もリデルと同じように「メルダースは真面目な生徒が学ぶ場所」と思っているので、ラルフのような不真面目な生徒がいること自体有り得ない。