ロスト・クロニクル~前編~
「俺の故郷に――」
「行きたくない」
言葉が終わる前に、エイルは否定の言葉を発する。
ラルフの故郷――冗談ではない。
たとえ普通の両親であっても、会う必要がどこにあるというのか。
しかし、興味がないわけでもない。
どのような教育方法で、ラルフの性格が形成されたのか。
この部分が、一番気になってしまう。
もし世間一般の普通教育が行われていたとしたら、ラルフのおかしな成長は突然変異ともいえよう。
普通に生きていれば、山百合をどどめ色に変化させる怪しい実験など行わない。
それに、マルガリータというネーミングセンスもそうだ。
ラルフの両親の性格を知りたくなったエイルは、興味本位で尋ねる。
「お前の両親は、研究者か?」
「いんや、農業をやっている」
「そ、そうか」
ごく一般的な職業に、エイルは別の意味で驚いた。
両親で野菜を育て出荷しているという意外、特に変わった職業ではない。
やはり、突然変異でこのような性格になってしまったらしい。
「ただ、品種改良はやっているね」
その言葉に、エイルは心の中で突っ込みを入れた。
ラルフは突然変異でも何でもなく、両親の性格をバッチリと受け継いでいた。
こうなると、家族全員が同じ気質の持ち主になってしまう。
「ふーん、そうなんだ」
「な、何だよ! そのつまらなそうな顔は」
「両親もラルフと同じだと思ってね」
「だって、家族だもん」
「……なるほど」
てっきり反論してくると思っていたが、素直にエイルの言葉を受け取る。
どうやら多少は自身が世間とズレていることに気付いているらしいが、ラルフの暴走が止まることはない。
その時、食欲をそそる良い香りが漂ってきた。
どうやら、注文した料理ができあがったようだ。
テーブルの上に、次々と料理が並べられていく。
その量は、朝から食べるには多かった。
学割定食――それはメルダースの生徒が好んで注文をする、お馴染みのメニューであった。
金持ちだけではなく貧乏人も通うメルダースなので、学生の財布に優しいメニューが考案された。
お陰でこの店は繁盛しており、尚且つこの店がなければ栄養失調で倒れる者も多いだろう。