ロスト・クロニクル~前編~
「メルダースを卒業したら、農夫でもやるのか? 意外にお前って、農夫が似合いそうな感じだから」
「冗談じゃない! 俺は、名を残す研究者になる。見ていてくれよ。世紀の大実験を行うから」
そう言うと、から揚げが刺さったフォークを天高く掲げる。余程
大きな夢を持っているのか、から揚げがラルフの意思に反応するかのように輝く。
多分、油が光を反射させた。
エイルはそう自分に言い聞かせ、無理矢理納得する。
「その前に、卒業だな」
「痛いところを突いてくれるね」
「当たり前じゃないか。卒業をしなければ、就職先が決まっていても働けないだろ。就職……忘れていた」
自身が発した台詞に、今度はエイルが頭を抱えてしまう。
就職活動――これから、それを行わないといけない。
特に問題を起こさず普通に進級すれば、メルダースの在学期間は一年。
無論それは留年しないことが前提なのだが、エイルは留年を考えてはいないので、就職先を卒業までに確保しないといけなかった。
父親の後を継げば、苦労などしなくていい。
勿論、父親もエイルが後を継ぐことを望んでいる。
最初は、そのことを迷っていた。
だからあの時、リデルに曖昧な言葉を言ってしまった。
「エイルなら、簡単に見つかるぞ。就職活動なんて簡単に終わらせて、俺達の勉強の手伝いをしてほしいな」
「嫌味か」
「違うよ。何処かのお抱え魔導師になればいいってこと。絶対に、儲かるぞ。で、給料分けてくれ」
「嫌だね」
確かに、その道を選択するのもいいだろう。
魔導師を護衛代わりに雇う金持ちは多いと聞く。
特にメルダースを卒業した者となれば喜んで雇ってくれるが、お抱え魔導師など両親が許さない。
「あれ? お抱えじゃ、不満なのか? エイルなら、選び放題だと思うけど。成績はいいし」
「そんなことはないよ」
「なら、それで決まりだね」
ラルフは、焼きたてのパンを口いっぱいに頬張る。
先程まであんなに落ち込んでいたのに、今は目の前の料理を腹に詰め込むことに専念する。
立ち直りが早い友人に、エイルは溜息をつく。
この性格は、短絡的というべきものだろう。
ストレスが溜まらない、楽な性格であった。