ロスト・クロニクル~前編~
「僕の未来を決めるな」
「いいと思ったのに」
「父親と相談」
「勝手に決めれば」
「そうはいかないだろ」
卒業する前に一度、国に戻ってくるように言われている。
就職に関して何か言われるのだろうと察したエイルは今まで先延ばしにしていたが、そろそろ我儘が通じなくなってきた。
エイルは何度となく手紙を両親に送っているが、明確な返事は避けてきた。
しかし、進級と同時に答えを出さないといけない。
故郷に戻り、父親の後を継ぐかどうか――
それにより、運命が変わる。
「で、その両親だけど」
「会わせないぞ」
「まだ、何も言っていないじゃないか」
「言われなくてもわかる。絶対に嫌だ!」
その言葉にラルフは横を向き、舌打ちをする。
どうやら話の流れでそのまま「行く」ともっていきたかったようだが、そうはいかない。
ラルフが来るとなると、おかしな物までついてくる。
マルガリータは静かに眠っているが、マルガリータ二号が誕生してもおかしくはない。
あの奇怪な植物を持ち込まれたら堪らない。
何かの間違えで根付いてしまったら、取り返しのつかないことになってしまう。
自分の生まれ育った故郷を危険に晒すことは、絶対にできない。
「いいじゃないか、ケチ!」
「ケチで結構。もしついてきたら、野宿してもらうからな。お前を泊める部屋は、ないと思え」
「野宿は平気だよ」
「そうなんだ」
「俺は、軟じゃないぞ」
その瞬間、エイルの瞳が怪しく光った。
ラルフは、クローディアの環境を甘く見ている。
あの土地は夏に野宿をすれば風邪をひき、冬になれば間違いなく凍死してしまう。
いや運良く生き残ったとしても、凍傷で手足を失うのは確実であった。
そして、一生不自由な生活を送る。
つまり、野宿など以ての外。
そもそも、やる人間などいない。
もしそれを行う者がいたら、馬鹿か自殺志願者だろう。
南方出身の為に北国の気候を知らないのはわからなくもないが、メルダースで毎日のように地理を学んでいるのだから、それ関連の知識は持っているもの。