ロスト・クロニクル~前編~

 だというのに、この無知っぷり。

 多分、授業中に寝ているに違いない。

 これで留年が一回しかないというのだから、メルダースは彼を追い出す気でいるのだろう。

 確かに、残しておくにはあまりにも危険だ。

「野宿をするのなら、行っていいと判断するよ。野宿に関しては慣れているから、大丈夫だよ」

「どうしてそのような解釈になる」

「家には止められないけど、野宿ならついていっていいと思ったから。あれ? 違うのかな」

 自分の都合のいい解釈をするラルフに、エイルは切れ掛かっていた。

 しかし朝から何度も怒鳴るのは身体の負担が大きいので、エイルは態度で相手を威圧する。

 握り締めていたフォークを思いっきり振り下ろし、から揚げに突き刺す。

 そしてそのから揚げを、丸々口の中に入れた。

 豪快とも取れる食べっぷりに、ラルフは何か嫌なものを感じ取った。

 エイルは小食で有名。

 その人物がから揚げを一口で食べてしまうということは、自分に威圧をかけているということ。

 本能的に察したラルフはエイルから視線を外し、静かに食事を続けた。

 一方エイルは、口に入れたから揚げを懸命に噛み砕き喉に押し流す。

 流石に大きかったらしく、飲み終えた後大きく息を吐き出した。

 その後、沈黙の中で食事が続けられていく。

 勿論ラルフは、食べた気はしなかった。


◇◆◇◆◇◆


 食事を終え学園に戻ると、エイルは寮の自室に篭り手紙を書いていた。

 宛先は両親へ――就職のことを綴っていく。

 確かにラルフが言っていた、金持ちのお抱えもいいだろう。

 だが、選択肢はひとつしかない。

 戻るしかない。

 それをハッキリと認識したのは、つい最近のこと。

 周囲で進級できるかどうか騒がれはじめた時、エイルは進むべき道を模索した。

 そして、自分の意思を伝える時が来る。

 エイルは走らせていたペンを止め、暫く考え込む。

 なかなか言葉が見付からない。

 だが、一言だけ書けばいい。

 帰ります。

 とても簡単な言葉であるが、エイルにとっては重かった。

 誰かがこのことを聞いたら、笑うだろう。

 恵まれた環境なのに、それ以上何を欲するのか。

 それは上辺だけを見た答えで、深い部分はそう簡単に片付けられる内容ではない。

 ふと、エイルは机の引き出しを開け、何かを取り出す。


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