ロスト・クロニクル~前編~

 メルダースで様々な学問を学んでいるというのに、この知識のなさ。

 改めて進級できたことを奇跡と思え、本当にメルダースで学んでいていいのかと思ってしまう。

 だが、ラルフは天才だ。

 天才だからこそ、おかしな薬を作れる。

 そして爆発を起こし、メルダースを破壊していく。

「なら、何で知らないんだ」

「勉強はしているけど、知識として吸収……」

「どうせ、寝ているんだろ」

 鋭い突っ込みに、ラルフは固まってしまう。

 何ともわかり易い反応に、エイルは果実酒を一口飲む。

 口の中に広がるのは、ほのかな甘み。

 アルコール度数もそれほど高くはなく、飲みやすかった。

 この酒から、ラルフの父親は普通の人間だと判断できる。

 もしラルフが酒を買ったとしたら、とんでもない物を買ってくるだろう。

 なんせラベルも見ずに、買い物をする性格だからだ。

 その為、部屋の中に転がっているおかしな物。

 全て適当に買ってきた、使わない物である。

 埃を被り寝台の下に詰め込んであった箱の中身もそうであり、最終的には化石に変化する。

 半年に一回の大掃除。

 その時、大量の私物がゴミとして出され周囲を驚かせる。

 「金がない」と騒ぐ時もあるが、大きな原因がこれにあるのだろう。

 エイルは部屋全体を見回すと、溜息を漏らす。

「な、何?」

「何でもない。で、その物欲しい視線はなんだ? 金のことに関しては、却下! 受付はしないよ」

「いや、そのようなことじゃないんだよ。あのな、学年が別々になっても友人でいてくれる?」

「留年する気でいるんだ」

「そ、それは違うぞ! “もしも”ということがあるから。エイルは、どうせ留年しなんだろ」

「勿論!」

 エイルは「留年してたまるか!」という表情を浮かべると、フッと笑みを浮かべる。

 自信に満ちたその表情に、ラルフは負けそうであった。

 それに、向上心を持たないラルフ。

 もし今の学園生活にそれ相応の向上心が含まれたら、もっと頭が良くなっていたに違いない。

 だがエイルにとって、今のままでいいと思っている。

 これ以上余分な知識を増やしてしまったら、おかしな生物と植物が無制限に増えてしまうからだ。

 そうなれば、学園の崩壊に繋がってしまう。

 そして、クリスティの問答無用とも非情とも取れる魔法攻撃が待っている。


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