ロスト・クロニクル~前編~
「就職が決まったら教えてね」
「嫌だ」
「何で即答!」
「嫌なものは、嫌だからだよ。故郷のことも就職のことも、お前には関係ない。他人のことを心配する暇があったら、自分のことを考えろよ。どうせ、就職活動は失敗するんだろうし」
エイルが会社の偉い人物だったら、ラルフのような人間は雇わない。
そもそも特定の職種しか働けないというのは、問題がある。
しかしその職種も聊か問題があり、絶対についてはいけない職業だ。
「そこまで言うのなら進級し、見事に就職してやる」
「楽しみにしているよ」
「驚かせてやるからな」
エイルは、特に期待などしていなかった。
その理由として、ラルフが真面目に働くような場所を思いつかなかったからだ。
一般的な職種は苦手。と言って、研究者の道は難しい。
こうなったら実家に帰り両親と一緒に畑仕事をするのが、安定した収入を得る一番の方法だろう。
だがそうなると、メルダースに入学した意味がない。それぐらいは、ラルフもわかっている。
「よし! 来年から俺は変わるぞ」
「おお、凄い」
グラスに注いだ果実酒を一気に飲み干すと、来年の目標を述べる。
その目標にエイルは拍手を送るも、これまた期待はしていない。
ラルフがたてる目標は、決まって一週間も持たないからだ。
その時、学園中に鐘の音が響く。
その音にエイルとラルフは顔を見合すと、互いに笑みを浮かべた。
そう、新しい年を迎えたのだ。
「今年も宜しく!」
「宜しく。あっ! 今年こそ、迷惑を掛けないでほしいな。今年は、何かと忙しくなるから」
新年を迎えた早々の毒吐きに、ラルフは苦笑いを浮かべる。
だがエイルらしい返しに、軽く返事を返した。
そしてグラスに果実酒を注ぐと、新年を祝う。
今年も良い年でありますように――と。
酒瓶の半分以上を一人で飲み干してしまったラルフは、上機嫌であった。
顔をほのかに赤らめ、呂律が回っていない。
どうやら酔っ払ってしまったらしく、一人で勝手に喋り続けていた。
そんな友人を他所に、エイルはラルフの為に持ってきた料理をつまみ食いをする。