ロスト・クロニクル~前編~
そう、ハリスを驚かせた生き物がいる場所へ。
知的好奇心が、彼等を動かす。
たとえどのような結末が待っていようとも、構わなかった。
いや、結末は予想できていた。
だからこそ、生徒達は其処へ向かってしまう。
これは、学園はじまって以来の珍事。
この先、絶対に起きることのない……起きてはいけない出来事。
だからこそ、生徒達はこの目に焼き付けようとする。
ハリスが驚愕した、植物のことを――
彼等は急いで、現場へ向かった。
そして真っ先に目に飛び込んできたのは、腰を抜かしたハリスの姿であった。
何かを指差し、身体を震わせている。
それは恐怖に戦いているのではなく、植物の変化に怒りを覚えていたようだ。
「ハリス爺ちゃん?」
そう声をかけた瞬間、物凄い形相で睨み返された。
その表情から伺い知れることは「植物を貶した」ということだろう。
犯人が見つかった場合、持っている剪定用のハサミで切られてしまう。
「な、何があったのですか?」
「これを見ろ」
促されるまま、指で示された植物を見る。
次の瞬間、全員の時間が止まった。
そう其処に生えて植物は何と「どどめ色」をしていたのだ。
その色にエイルは心当たりがあったが、ハリスが恐ろしいので口には出せないでいた。
「誰だ! このようなことをしたのは」
どどめ色の植物――それも、山百合であった。
その姿形からして、間違いない。
あの「マルガリータ」と呼ばれていた、山百合である。
それに思い出せば、埋めた位置は確か此処であったはず。
まさか、復活を。
エイルは周囲に誰もいなかったら、頭を抱え叫んでいただろう。
あの時、確かにマルガリータは確かにご臨終した。
だが、冬を越し春になって復活をするとは、予想外もいいところである。
流石、ラルフが育てていた植物。
育て主に似てタフで根性があり、尚且つ鬱陶しく諦めを知らない。
あのまま永遠に眠っていてくれれば、どれだけ学園にとって幸せだったことか。
(ああ、何故……)
この世界にいてはならない植物の復活に、エイルは全身から力が抜け崩れ落ちてしまう。
そして、ちょっぴり涙ぐんでしまう。
いや、周囲に誰もいなかったら大声で泣き叫んでいただろう。
詰が甘かったのか、それともマルガリータを不憫に思ったのがいけなかったのか。